ユーラシア地域大国の比較研究(田畑 伸一郎)

研究領域名

ユーラシア地域大国の比較研究

研究期間

平成20年度~平成24年度

領域代表者

田畑  伸一郎(北海道大学・スラブ研究センター・教授)

研究領域の概要

 ロシア、中国、インドなどのユーラシア地域大国について、人文・社会科学の諸分野(国際関係、政治、経済、社会、歴史、文化)からの総合的、体系的な比較を行い、これら諸国が地域大国として発展・定着できる条件が何であるのかについて明らかにする。比較においては、これらの地域大国が歴史的に帝国あるいは文明圏を形成してきたという共通性を重視する。また、地域大国という「中間項」を入れることにより、「超大国の一極支配」、「世界的な均質化や画一化」とは異なる視座を確立し、この新しい視座から、現代世界の重要な問題(安全保障、民族紛争、宗教対立、環境、格差と貧困など)について総合的、学際的な解明を試みる。

領域代表者からの報告

審査部会における所見

A-(研究領域の設定目的に照らして、概ね期待どおりの成果があったが、一部に遅れが認められた)

1.総合所見

 本研究領域では、全体としてよく練られた研究計画にしたがって、異なる地域を専門とする研究者が共同調査や相互乗り入れを行うなど、意欲的で密度の濃い地域間比較研究がなされた。6つの分野に分かれた各計画研究が着実な成果をあげるとともに、研究代表者や総括班がそれらをつなぐために活躍するなど、領域マネジメントも良好であった。とりわけ「地域間比較研究」という分野における研究体制の大幅な進展があったことは高く評価される。
 しかしながら、分野横断と地域横断をかけあわせた研究成果の全体像や総論の提示には至っておらず、本研究領域がどのような点で、従来の人文・社会科学の諸理論を越えた新しい問題提起や課題解明を成し得たのかについては、必ずしも明確ではなかった。
 また、人文・社会科学のみならず生態的な要因も入れた議論や、中国による海洋進出やアフリカ大陸への関心など最近の出来事がもつ意味についても、踏み込んだ研究があればなおよかった。    

2.評価の着目点ごとの所見

(1)研究領域の設定目的の達成度

 「異なる学問分野の研究者が連携して行う共同研究等の推進により、当該研究領域の発展を目指す」及び「多様な研究者による新たな視点や手法による共同研究等の推進により、当該研究領域の新たな展開を目指す」という点については、地域大国という新たな視点から地域研究の新領域を開拓し、各地域の研究者を比較の枠組みに導くという意図が、組織的な形で実現された点が評価できる。
 一方で、「当該領域の研究の発展が他の研究領域の研究の発展に大きな波及効果をもたらす」という点については、本研究によって得られた知見が、従来の人文・社会科学の学問の枠組みを超えた「新学術領域」の理論的基盤にどのように貢献するのかが不明瞭であった。

(2)研究成果

 論文や著作シリーズ、国際学会発表など様々な手法で、ユーラシアにおける地域大国の役割や国際秩序の再編、国家意識の歴史的展開についての新たな知見が提供された。今後、「新学術領域」として、新たな視点や方向性を提供する総括的な成果の公表や、地域間比較のためのデータベースの公開などが望まれる。

(3)研究組織

 計画研究や共同研究について、地域割りではなく、分野やテーマ別に組織化を行ったことによって、各研究者が専門とする地域以外にも視野を広げ、比較研究を実施する体制を作りあげたことは、大いに評価できる。中国とロシアなど社会主義大国の比較はこれまでもあったが、それにインドを加え、人口規模や多様な民族・言語構成という別の観点から比較を試み、インドの研究者がロシアで現地調査に参加して論じるなど、工夫がこらされている。

(4)研究費の使用

 特に問題点はなかった。

(5)当該学問分野、関連学問分野への貢献度

 本研究領域によって、従来になかった研究者コミュニティが創出され、「地域間比較研究」が大幅に進展したことは、今後の学問形成の基盤としての大きな可能性をもっている。また、欧米諸国を対象として発展してきた社会科学諸分野の理論を、ユーラシアの三国の比較を起点として見直すことで、いくつかの分野で既存の枠組みを問い直し、新しい理解や視点を提供することにつながるなど、一定の成果があった。しかし、理論的観点から統一的理解に達したとは言い難く、他の人文・社会科学分野への波及効果は必ずしも明らかではなかった。

(6)若手研究者育成への貢献度

 若手研究者育成プログラムはよく考えられており、研究機会の提供のみならず、教育という点でも工夫がなされていた。ただし、もう少し広範囲に及ぶ育成・支援の方法が検討されれば、さらに効果が期待できたと思われる。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

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-- 登録:平成25年11月 --