「新学術領域研究(研究領域提案型)」生命科学系3分野支援活動の中間評価に係る所見(ゲノム支援活動)

1.支援活動名

ゲノム科学の総合的推進に向けた大規模ゲノム情報生産・高度情報解析支援


2.研究期間

平成22年度~平成26年度

3.研究代表者

小原 雄冶(国立遺伝学研究所・所長)

4.研究代表者からの報告

(1)支援活動の目的及び意義

 生物はゲノムDNAの情報をもとにして生まれ、育ち、子孫を残します。病気も個性も進化も生態系もすべてゲノムが関わりますので、人間や生物、環境の理解のためにはゲノムDNAの働きを解明することが不可欠です。ゲノム科学の一層の発展が必要ですが、近年、次世代型と呼ばれるDNAシーケンサーが超高速・超大量のDNA解析を可能にし、生命科学・医学に革命ともいえる発展や新たなフロンティアをもたらしつつあります。しかしこれを活用するためには、超大量のデータ処理が伴うことからしっかりした解析体制を作る必要があります。「ゲノム支援」領域では従来のゲノム特定領域研究で培ってきた人材、技術を最大限生かして次世代型ゲノム解析の拠点を整備し、公募等で選定された課題に対してゲノム解析支援を行い、生命科学・医科学のすそ野拡大とピーク作りの両方を進めることを目的とします。そして、その過程で解析技術・システムをさらに向上させ、人材を育成し、ゲノム科学自体の発展をめざします。また、個人ゲノム情報も含め大量に得られるデータを研究コミュニティで共有して活用できる体制作りを目指します。このような研究インフラを整備することも目的としていますが、このためには社会とともに進めていくことが必須ですので、ELSI(倫理的、法的、社会的問題)の活動とその人材育成を重要な課題として取り組んでいます。

(2)支援活動の進展状況及び成果の概要

 「ゲノム支援」領域では、大規模DNAシーケンシング拠点、医科学支援拠点、情報解析グループをおき、科研費全分野の採択課題から公募により選定された課題に対してDNAシーケンサによる実験解析(ウェット)・コンピュータによる情報解析(ドライ)の支援活動を一体的に進めてきました。3年目に入り、すでに200件超の課題が支援を受け、あるいは支援が進行中です。医科学分野では疾患ゲノム解析から、概日リズム障害、顎口腔領域関連形質、脳動脈瘤、遺伝性自己免疫疾患、小児交互性片麻痺などで疾患候補遺伝子が見出されています。110歳超の長寿ゲノム解析も開始しましたし、これらの個人ゲノム解析の基盤として日本人参照配列の整備も進めてきました。このためゲノムELSIユニットでは同意書ひな型作りや倫理委員会の研修会などの活動を進めました。生物学分野では多様な生物・微生物のゲノム解析を進めてきましたが、野生由来生物のゲノムは両親からのゲノムの間の多型の多さのためにその解読は困難でした。これは世界的な課題でしたが、支援課題の実データをもとに本領域の情報解析支援グループが新しい解析プログラムPlatanusを開発し、解決に大きく前進しました。最近のシーラカンスゲノムの解読はその成果です。四足動物進化の大きな手掛かりが得られつつあります。進行中のヒトデ、アゲハ、アサガオなど我が国の特色を生かしたゲノム研究が一挙に進むことが期待されます。これらは、ウェットとドライの研究者が一体となって支援活動をするという「ゲノム支援」の融合的な環境の成果とも言えます。

5.審査部会における所見

総合所見

 A (支援活動の設定目的に照らして、期待どおりの進展が認められる)

 ゲノム解読基盤は、現在ではすべての生命科学分野の研究の遂行に必須の技術である。また、スケールメリットが必要なため、本支援活動のような集約型の支援基盤は大変効率的である。本支援活動は、総括班に加えて大規模ゲノム解析・ゲノム医科学・情報解析の3つの解析分野から構成され、それぞれが代表者の強力なリーダーシップの下、バランスよく進められている。総合して、日本の生命科学全般をゲノム解析の面から支援する、支援活動としての目的に合致した活動が行われていると評価できる。一方で、今後は、何をもって研究支援の核心部分とするかを明確にし、戦略に基づいた研究支援を行うことが必要である。その際、バイオインフォマティクスの若手研究者の育成に配慮することも必要である。

評価に当たっての着目点ごとの所見<領域全体>

(a)マネジメントの適切性

 総括支援活動を司令塔とし、個別課題支援活動が連携してゲノム科学分野全体を支援する体制となっている。また、拡大合同班会議において公募支援の採択者と支援活動メンバーの異分野融合の場を提供するなど若手研究者育成を意識した活動を行うとともに、ゲノム分野における倫理的、法的、社会的問題の重要性に鑑み、ELSIセンターを設置して支援活動全体の体制作りを行うなど、研究代表者のリーダーシップの下、適切にマネジメントが行われた。一方で、個別研究の推進にとどまらず、日本のゲノム研究分野全体の将来の発展のために、今後どのような戦略に基づいて支援を行うのか検討する必要がある。

(b)支援活動の有効性

 多くの研究で本ゲノム支援を受けた結果、研究が大きく進展したことから、全般としては有効に機能したと考えられる。また、ゲノム情報を可能な範囲で公開し、情報共有を図っている点は高く評価できる。一方で、一部の支援で実験手法の共有がうまく機能しなかった例もあり、今後、支援活動の在り方の検討と併せ、個々の支援活動の計画・方法の見直しを行うことも必要と思われる。

(c)支援経費の効率性

 限られた予算の中で支援を行う上で、科学研究費助成事業に採択された課題の中から公募形式で支援課題を選別するシステムは合理的で効率的に機能している。

(d)若手研究者の育成

 バイオインフォマティクス分野の人材育成は我が国において喫緊の課題となっており、この分野の人材育成に配慮した若手研究者の育成が行われているものの、ゲノム研究の裾野の広がりを目指すには、ウェットの研究者の中でバイオインフォマティクスを扱える人材を増やすためのプログラムなども必要と思われる。今後の人材育成の方向性を示すことが求められる。

(e)ライフサイエンス分野における各種施策との関係

 幅広い基礎研究者に最先端の解析技術を提供するなど、本支援活動自体の意義は認められるが、他の各種施策との相違は必ずしも明確ではない。
一方で、国際的に非常に速いスピードで進展している分野であり、日本の現在の世界での立ち位置を考えて総合的に施策を進める必要があるため、他の大型ゲノムプロジェクトと連携して支援内容を検討することも必要である。

(f)今後の方向性

 日本のゲノム研究のピークを上げるための最先端の支援と裾野を広げるための支援とを区別して支援戦略を立てる必要がある。その際、個別研究を推進するだけではなく、日本のゲノム研究分野全体の将来の発展のための支援事業として、支援の在り方を考えるべきである。
また、バイオインフォマティクス人材の育成については、具体的プランを作成する必要がある。

評価に当たっての着目点ごとの所見<個々の支援活動>

(a)支援活動の進展状況

 大規模ゲノム情報生産及び研究リソース構築支援活動、ゲノム医科学支援活動、情報解析支援活動が行われ、順調に進捗している。一方で、ゲノム研究のピークだけでなく裾野の広がりも目指すという観点からは、ゲノム解析に不慣れな研究者に対する支援の在り方など、改善の余地があると思われる。

(b)支援活動の成果・波及効果

 シーラカンスゲノムの比較解読や高ヘテロ接合性ゲノムに適用可能な解析プログラム”Platanus”の開発などにより、支援を受けた多くの研究で新規性・難易度の高い研究成果が得られた。また、疾患ゲノム解析の支援による臨床研究への貢献も高い。さらに、公共性の高いソフトの開発や可能な範囲でのゲノム情報の公開等により、高い波及効果も得られており、個々の支援活動は成果を上げていると評価できる。

(c)成果の公表・普及

 支援を受けた研究者により多くの論文発表が行われた。また、成果公開シンポジウム、国際シンポジウム、ELSI公開シンポジウム、ヒトゲノム解析倫理審査のための研修会、情報解析講習会など多くの対外的な活動を行い、普及に務めた。

 

 

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成25年05月 --