バルクナノメタル ―常識を覆す新しい構造材料の科学 (辻 伸泰)

研究領域名

バルクナノメタル ―常識を覆す新しい構造材料の科学

研究期間

平成22年度~平成26年度

領域代表者

辻 伸泰(京都大学・大学院工学研究科・教授)

領域代表者からの報告

1.研究領域の目的及び意義

 本研究の目的は、「マトリクスを構成する結晶粒や相が1μm以下のサイズを有する均一なバルク状金属系材料」=Bulk Nanostructured Metals(バルクナノメタル)を研究対象に、それらが示す常識を超えた力学特性をはじめとする新規な物性・特性を、様々な分野背景を有する研究者が最先端の独自な研究手法を駆使し、緊密な連携を図って明らかにして、サブミクロン領域に潜む新たな材料科学の学術領域を打ち立てることである。この目的を実現するために、関連する分野で世界的に活動する多様な研究者を組織し、また材料科学における実験と計算の融合を目指す。さらには、新進気鋭の若手研究者を多数参画させ、国際競争力を有する人材の育成にも力を入れている。
 多結晶金属材料を構成する結晶粒の大きさを細かくすれば、種々の特性が向上することが経験的に知られている。異なる方位を持ち隣接する結晶粒の境界(粒界)においては、原子の3次元的な周期配列が乱れ、粒内とは異なる構造が生じている。そのため、「粒界だらけ」のバルクナノメタルは、従来の金属とは全く異なる物性・特性を示す。バルクナノメタルは過去の合金設計概念を覆して、単純な化学組成で優れた特性を示し希少資源を消費せずにリサイクル性にも優れた構造材料を実現する。すなわち、バルクナノメタルは、金属材料の不連続的、飛躍的な発展を可能とし、新しい環境・エネルギー技術を支える新材料として、持続的な社会の発展に資することができる。

2.研究の進展状況及び成果の概要

 領域採択後2年間を経過し、この間、東日本大震災により一部の研究機関が被災し、領域の平成22年度末報告会も中止になるという予期せぬ事態も生じたが、領域の研究は順調に進捗している。その成果は、学術雑誌論文256編、国際会議論文151編、学会発表628件などとして、多数報告・公表されており、期待以上の成果が得られている。特に、研究室の枠組みを越えた連携的な研究が活発に行われている。多数の合同勉強会・研究会が開催されているほか、例えば上述の学術雑誌論文のうち、50編が複数の研究室間の連携の成果であり、その数はさらに増えると考えられる。また当初の期待通り、実験研究と計算・理論研究の間の対話・共同研究が着実に進み、新たな成果が生まれつつある。若手研究者の人材育成も進み、領域内でののびやかな研究活動を推進した結果、40歳未満の若手研究者による受賞12件、国際会議招待講演14件などの成果が現れている。
 主要な研究成果として、以下の項目をあげることができる。
(1)強度と延性を両立させたバルクナノメタルの発見
(2)転位-粒界の反応の三次元観察
(3)バルクナノメタルのクリープ変形挙動の分子動力学法による解析
(4)難変形材料の巨大ひずみ加工とナノ組織化
(5)強せん断加工によるナノ組織形成の物理シミュレーション
(6)バルクナノメタルにおける転位生成理論の提案
(7)バルクナノメタルにおける低温破壊靱性向上メカニズムの大規模力学計算による解明

審査部会における所見

 A (研究領域の設定目的に照らして、期待どおりの進展が認められる)

1.総合所見

 本研究領域では、金属材料について、添加元素に頼らずに新しい発想に基づいて強度と延性を兼ね備えた構造材料の確率という困難な目標にチャレンジしている点は評価できる。領域代表者の強いリーダーシップのもと、目的に対して期待通りの進展が認められ、構造材料分野の高いレベルの国際学術誌に多数の論文が掲載されていることからも、十分な研究成果が出ていることが認められる。領域内での共同研究も活発に行われており、若手研究者の育成の効果も認められる。

2.評価の着目点毎の所見

(1)研究の進展状況

 「多様な研究者による新たな視点や手法による共同研究等の推進により、当該研究領域の新たな展開を目指すもの」としては、金属材料科学の不連続的、飛躍的発展について、基礎物性設計から材料創製、変形理論まで、バルクナノメタルという共通対象のもとに、個々に順調な成果をあげている。また、適切な研究者が密接に連携し、共同研究も活発に行われているなど、領域代表者の強力なリーダーシップが分野の活性化につながっていることは評価できる。

(2)研究成果

 「多様な研究者による新たな視点や手法による共同研究等の推進により、当該研究領域の新たな展開を目指すもの」としては、構造材料に関する高いレベルの国際学術誌に多数の論文が掲載されている。若手研究者の育成の成果も認められる。

(3)研究組織

 若手研究者を計画研究代表者とするなど人材育成にも意欲的である。

(4)研究費の使用

 特に問題点はなかった。

(5)今後の研究領域の推進方策

 構造材料の重要な開発要素も取り入れ方向性を検討している点は評価できる。例えば、クリープに関しては、一般には粒界は変形を助長する因子となるが、その克服に向けたチャレンジも開始されている。実用化につながる基礎研究を増やすことも必要と考えられるが、優れた組織とリーダーシップにより、十分今後の成果が出ることも期待したい。また、強度と延性の両立の原理原則以上の具体的なアウトプットも望まれており、基礎的観点からの今後の展開を期待したい。さらに、力学特性以外の興味深い物性についても、対象とすることが望まれる。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成24年12月 --