セルセンサーの分子連関とモーダルシフト(富永 真琴)

研究領域名

セルセンサーの分子連関とモーダルシフト

研究期間

平成18年度~平成22年度

領域代表者

富永 真琴(自然科学研究機構・岡崎統合バイオサイエンスセンター・教授)

領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 細胞は、それを取り巻く環境の変化の中で、その環境情報を他のシグナルに変換し、細胞質・核や周囲の細胞に伝達することによって環境変化にダイナミックに対応している。さらに、細胞で得られた感覚情報は生物個体の生存適応に必要不可欠な個体の感覚情報へと統合される。こうした細胞外環境情報の検出及びシグナル変換に関わる細胞感覚分子群をセルセンサーと総称し、統合的に研究を展開することを提唱した。セルセンサーとして総括することにより、これまで個々の感受性変化や発現変化としてしか捉えられてこなかった個別の現象が、空間・時間・種間においてダイナミックに感受性や発現の様相を変えて、そして時には異なる刺激に応答する別のセンサーに変身することによっても実現される生存応答及び個体の生存適応の文脈の中で統合的に理解されることが期待される。このセルセンサー分子群のダイナミックな変化を表す新しい概念としてモーダルシフトを提唱し、その解明を目的の一つとした。これらのセルセンサー分子の動作機構、セルセンサー間の相互連関、セルセンサーのモーダルシフトと情報統合を解明していくことは、細胞の生存応答、さらには、その情報統合の上に成立する個体適応を解明するうえで極めて重要であり、 これからの生命科学の中心的研究領域になると考えている。

(2)研究成果の概要

 上記目的に沿って、平成18年8月に発足した本特定領域は、総括班、支援班と3つの研究項目(A01:セルセンサーの新規動作機構、A02:センサー・センサー相互連関と情報統合、A03:セルセンサーの環境適応と生存応答)からなり、13の計画研究でスタートした。平成19年4月に31件の、平成21年に33件の公募研究が加わり、研究を推進した。5年間で本特定領域の方針が班員に十分理解され、数多くの素晴らしい研究成果(総論文数509報)が得られ、新聞・HP等でも取り上げられた。セルセンサー、構造や機能のモーダルシフトという新しい視点の学術体系が完成した。研究課題に関連した領域内・外共同研究も数多進んだ。また、5年間に10回の班会議と2回の公開シンポジウムを総括班の指揮の下に開催した。さらに、支援班は1)共通使用機器の設置・使用支援、2)遺伝子改変動物の作成、3)多光子励起観察法によるセンサー分子および形態観察、4)支援班活動の周知を行った。加えて、特定領域の発展・共同研究の推進には若手研究者の育成が欠かせない、との判断から、若手研究者自らが企画した若手の会を5年間で6回開催した。ニュースレター誌「CELLSENSOR」1-7号の発刊も行った。このような成果は特定領域ホームページ(http://www.nips.ac.jp/cellsensor/)を通じて世界に発信した。

審査部会における評価結果及び所見

A(研究領域の設定目的に照らして、期待どおりの成果があった)

(1)総合所見

 本研究領域は、膜タンパク質、細胞内タンパク質、核内タンパク質を細胞外環境のセンサーとして捉え、その発現や機能の変化をモーダルシフトという新しいコンセプトとして提唱し、主に日本の研究者に浸透させてきた。TRPチャンネルやP2受容体あるいはナトリウムチャネルファミリーを基軸に、細胞感覚研究に大きく貢献したものと評価できる。また、生体が持つセルセンサーの機能的連関と相互作用を明らかにしようとしたものであり、学術水準は高く維持されてきた。総じて研究領域の設定目的は十分達成されたと評価できる。

(2)評価に当たっての着目点ごとの所見

(a)研究領域の設定目的の達成度

 研究領域の設定目的として「領域全体の学術的水準が高く、研究の格段の発展が期待できる研究領域」および「研究の発展段階の観点からみて成長期にあり、研究の一層の発展が期待される研究領域」を掲げた本領域において、当初の目標である(1)新しいセンサー分子内のモジュール間相互作用から演繹される動作原理の解明、(2)センサー・センサー相互連関からの細胞感覚研究とその情報統合の解明、(3) モーダルシフトの解明、いずれにおいても、十分な達成度があったものと評価できる。

(b)研究成果

 細胞感覚研究とその情報統合の解明において、かなりの進展があったものと評価できる。High impact factorのジャーナルを含む500報もの論文を発表している点は高く評価できる。また、発表論文もこの領域メンバー間の共著論文も多くみられ、中間評価時における指摘である研究連携の推進が図られたものと評価できよう。

(c)研究組織

 個別の研究でありながら、支援班の活動が活発であり、領域代表者を中心にうまく統合されている。

(d)研究費の使用

 特に問題点を指摘する意見はなかった。

(e)当該学問分野、関連学問分野への貢献度

 公開シンポジウムなどアウトリーチ活動が進展し、新しい分野として定着してきている。モーダルシフトという概念の提唱ができたことは、特定領域としては大きな成果であり、今後、快・不快の情動制御など高次機能への展開を期待したい。この領域により提唱されたモーダルシフトの概念が、他の分野との関連を明らかにすることにより、さらに広く認知されることを期待する。

(f)若手研究者育成への貢献度

 若手の会への支援など、若手研究者の育成に十分な配慮が認められ、評価できる。

(参考)

平成23年度科学研究費補助金「特定領域研究」に係る研究成果等の報告書(※KAKEN科学研究費補助金データベースへリンク)

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成24年02月 --