タンパク質分解による細胞・個体機能の制御(水島 昇)

研究領域名

タンパク質分解による細胞・個体機能の制御

研究期間

平成18年度~平成22年度

領域代表者

水島 昇(東京医科歯科大学・大学院医歯学総合研究科・教授)

領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 生体内ではタンパク質の合成と分解が常にバランスよく行われている。細胞内分解系は、単に不要・有害分子の除去を行うだけではなく、タンパク質の品質と量を管理することで、さまざまな生体機能を積極的にコントロールする制御系であると言える。すなわちタンパク質分解は、「セントラルドグマ」に続く重要な生体機能制御ステップとして認識することができる。これまで日本のタンパク質分解は世界をリードする立場にあったが、これをさらに推進するためには分解研究を統合するセンター組織が必要であると考えられた。これは今後の若手育成や、関連する新分野創成という観点からも重要である。そこで、このように急速に発展する細胞内タンパク質分解の研究背景をふまえ、細胞内タンパク質分解による細胞・個体機能の制御の統合的理解と、それにかかわる研究推進を目的とする本特定領域を設定した。本特定領域では、主要な細胞内タンパク質分解システムである、オートファジー系、ユビキチン系、カルパイン系を中心に、それらの分解系の制御機構と生物学的・病態生理的意義を明らかにすることを目的とした。また、分解系の相互連携や統合的理解の促進という観点から、従来型の分解系別の研究項目を敢えてはずし、領域全体でひとつの研究項目を設けることとした。タンパク質分解は、多彩な生命現象と密接に関係するため、本特定領域研究からもたらされる成果は、多くの関連分野に速やかに還元されることが期待される。

(2)研究成果の概要

 本領域ではタンパク質分解系に視点をおき、その制御機構と役割について研究を行った。タンパク質分解の制御機構については、多数のオートファジー関連因子の発見、オートファゴソーム膜による特異的基質認識機構の解明、mTOR複合体による新規オートファジー複合体の制御機構の解明、ユビキチンやカルパインなどの多数の新規基質の同定、ユビキチンリガーゼやカルパインの多様性とそれらの活性制御機構の解明、分岐鎖状のみが知られていたユビキチン鎖形成における直鎖状タイプの発見など、多くの新展開があった。タンパク質分解系の生物学的・病態生理的意義についても、特にマウスを用いた個体レベルでの研究が進み、胚発生、抗原提示、臓器恒常性、腫瘍抑制、炎症制御、胃粘膜防御などで分解系が不可欠な役割を担っていることが相次いで明らかにされ、世界に向けて大いなる発信を行った。さらに、細胞内タンパク質・オルガネラ品質管理、抗原提示、筋分解などでは、異なる細胞内分解系が連携していることも明らかにした。本領域では、班会議や公開シンポジウムに加えて、インターネットを利用したディスカッションサイトである「Proteolysis Forum」の運営などを通じて、班員の恒常的なコミュニケーションの確立、若手育成を推進した。結果として、領域内での情報交換や共同研究が本特定領域の成果の多くに寄与しており、本領域の果たした役割は大きいと考えられる。

審査部会における評価結果及び所見

A+(研究領域の設定目的に照らして、期待以上の成果があった)

(1)総合所見

 タンパク質分解は、重要な生体機能の恒常性制御機構であり、急速に発展している研究分野である。本研究領域では、十分な成果をあげることが出来なかった計画班員が存在したとする指摘や、臨床医学分野への応用が必要との指摘があったが、基本的な課題であるタンパク質分解の制御機構と分解系の機能に焦点を当て、オートファジー系、ユビキチン・プロテアソーム系、カルパイン系について統合的に研究を行い、有機的な連携により、多くの知見を得たと評価できる。
 また、着床前の胚の発生、抗原呈示、腫瘍の抑制におけるタンパク質分解系の意義を示したことは、生命現象研究に対する波及効果が高いものと評価できる。さらにはアウトリーチ活動が活発に行なわれ、フォーラムという討論や情報交換を自由闊達に行なえる環境をWEB上に整備したことも、領域運営の工夫として特筆される。以上、総合的な見地から本領域は期待以上の成果があったと評価できる。

(2)評価に当たっての着目点ごとの所見

(a)研究領域の設定目的の達成度

 研究計画の方向性が明確で、多くの業績が発表された。領域内の連携が緊密で、各グループについての目標設定は概ね達成されたものと高く評価できる。

(b)研究成果

 インパクトが大きく、非常に質の高い業績がコンスタントに数多く発表されたが、一部には業績が十分でないと思われる計画班員もいた。

(c)研究組織

 能力の高い研究者グループで組織され、タンパク質分解の全容をカバー出来る布陣として、バランスの良い構成がなされていた。

(d)研究費の使用

 適切で、特に問題はなかった。

(e)当該学問分野、関連学問分野への貢献度

 基礎的な知見は十分集積され、当該学問分野において大きな成果をあげることが出来たと評価できる。また、アウトリーチ活動も活発であった。一方、さらなる領域の発展を遂げるためには、臨床医学分野への応用についてチャレンジするべきという意見もあった。

(f)若手研究者育成への貢献度

 フォーラムという討論や情報交換を自由闊達に行なえる環境をWEB上に整備し、若手研究者の参加も促進するなど、領域運営に独創的な工夫がなされていた。

(参考)

平成23年度科学研究費補助金「特定領域研究」に係る研究成果等の報告書(※KAKEN科学研究費補助金データベースへリンク)

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成24年02月 --