感染現象のマトリックス(野本 明男)

研究領域名

感染現象のマトリックス

研究期間

平成18年度~平成22年度

領域代表者

野本 明男(公益財団法人微生物化学研究会・微生物化学研究所・所長)

領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 本特定領域研究は、平成13年度~17年度採択の特定領域研究「感染と宿主応答」(代表、永井美之)を引き継ぐものとして組織された。「感染と宿主応答」では、病原体ごとの個別の学問と考えられてきた感染症学が、宿主免疫応答という横糸的研究に支えられ、一つの体系の中にある学問であることが明示された。そこで、さらに横糸的研究の視点を導入すれば、新たな切り口を持つ研究課題を生み出せるとの確信を持つに至った。
 病原微生物ごとに増殖機構や病原性発現機構に関する宿主との関わり合いは異なる。しかしながら、一般に、同じ分類に属する病原微生物は、互いに似ている点が多く、宿主との関わり合いにも共通点が存在する。したがって、各分類に属する代表的な病原微生物を選び、それぞれの感染現象を分子レベルで解析し、比較解析することは、感染現象の基本を知るための最も効率の良いアプローチであり、生命科学に対しても大きな貢献につながると考えた。
 また、各分類の代表的病原微生物を研究することは、突然現れる新興感染症に対する効率良い対策でもある。新興感染症に対する戦略を基礎からしっかりと支える研究組織の存在は、社会的にも意義深いと考えられた。
 さらに、外来性の病原微生物を扱う本領域研究からは、他の領域からは見えにくい部分に容易にアプローチできる可能性がある。

(2)研究成果の概要

 初年度(平成18年度)は総括班のみによる準備期間であり、この年度に領域の特徴、研究組織、今後の方針を十分な確認し、公開のシンポジウムを開催した。
 次年度から公募班員が加わり、本格的な研究活動を開始した。まず研究項目ごとの研究会を多数開催し、その多くに総括班員が出席して研究組織全体の把握に努めた。同時に、国際会議「あわじしま感染症・免疫フォーラム」を共催し、平成22年度まで継続した。また、若手研究者育成のため、「感染症沖縄フォーラム」を支援し、これも平成22年度まで継続した。
 平成20年度からは、総括班主導の横糸研究会を多数開催した。主なテーマは、「感染体のセントラルドグマ」「病原体のトロピズム」「宿主-寄生体の攻防」「種の壁」などである。これらの研究会の多くは、その後の検討を経て、新学術領域研究申請にまで至っている。
 平成21年度には公募研究者の入れ替えがあったが、平成19年度からの多くの班員は再び採択され、これまでの領域研究の方針はそのまま引き継がれた。最終年度である平成22年度は、既に領域研究の方針を熟知している研究班員の自主性に基づいた横糸研究会が多数行われ、ここでも、新たに研究課題が生まれた。
 以上のように、総括班に導かれた本領域研究のレベルは、研究期間が進むと共に急速に高まり、最後の全体班会議は圧巻であった。他の関連領域に多大の貢献をなす結果も残すことが出来た。本領域研究のような大きな領域研究だからこその成果であると確信している。今後、このような領域研究が消滅してしまうのは誠に残念である。

審査部会における評価結果及び所見

A(研究領域の設定目的に照らして、期待どおりの成果があった)

(1)総合所見

 個体としての宿主との応答から、細胞内の分子応答機構まで、生命科学の幅広い領域に波及する研究がなされている。先導的な役割を果たす領域として、質の高い研究成果が多く発表され、その引用回数からも、本領域の達成度は高いと評価できる。一方で、社会的関心の高い分野も含まれていることから、積極的な情報発信の場としてのアウトリーチ活動が望まれたが、十分な取り組みがなされていなかったとする意見や、領域の発展を目指すための横糸研究の達成度に問題がみられ、各論の寄せ集めにみえる部分があるとの指摘があった。また感染症をトータルで理解する視点が十分ではなかったとする指摘や、感染機構に留まらず感染防御を目的とした研究内容にも注力すべきであったとする意見もあった。
 なお、若手研究者の育成に関して、当該領域の発展の主力となる若手研究者をサポートし、実際に大きな成果をあげていることは評価できる。

(2)評価に当たっての着目点ごとの所見

(a)研究領域の設定目的の達成度

 研究対象を感染のマトリックス・マネジメントとしたもので、各グループについての目標設定はかなり達成されたものと高く評価できる。

(b)研究成果

 多くの病原体ウイルスの感染メカニズム解明に大きく貢献しており、個別研究としては、非常に高い成果が数多く発表されている。その一方で横糸的研究部分の達成度が十分でないとする意見があった。

(c)研究組織

 能力の高い研究者グループで研究領域が構成されており、多くの公募研究班からも十分な成果があがっている。

(d)研究費の使用

 特に問題点を指摘する意見はなかった。

(e)当該学問分野、関連学問分野への貢献度

 当該学問分野において十分な成果をあげ、大きな貢献をもたらしたと評価できる。一方で、アウトリーチ活動が十分ではなかったとする意見が多数あった。また、社会的要請の大きい研究領域であることから、感染症をトータルな視点で解析し、宿主側からの感染防御という臨床的視点での研究もあわせて推進すべきであったとする意見もあった。

(f)若手研究者育成への貢献度

 多くの若手研究者の育成にも予算配分がなされ、十分な成果をあげることができた。また、その結果として多くの若手研究者のプロモーションにも貢献した。

(参考)

平成23年度科学研究費補助金「特定領域研究」に係る研究成果等の報告書(※KAKEN科学研究費補助金データベースへリンク)

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成24年02月 --