ガンマ線バーストで読み解く太古の宇宙(河合 誠之)

研究領域名

ガンマ線バーストで読み解く太古の宇宙

研究期間

平成19年度~平成22年度

領域代表者

河合 誠之(東京工業大学・大学院理工学研究科・教授)

領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 ビッグバンによって生じた一様な「混沌」から銀河や星が初めて生まれる現場である太古の宇宙を、ガンマ線バースト(GRB)という宇宙で最も明るい光源を用いて解明するのが本研究領域の目的である。
 GRBは大質量の星がその一生の最期に起こす大爆発であり、数十秒間の爆発的なγ線と、そのあと急速に減衰するX線から可視光・赤外線にわたる残光を放射する。GRBはたった一個の星の爆発でありながら、その明るさゆえに遠方のものが観測可能である。初代の星は太陽の数十倍を越える大質量で生まれたと考えられており、百万年程度の短期間に燃え尽きてGRBを起こすと期待される。その後の世代の大質量星もすぐに燃え尽きてGRBを発生するのでGRBの頻度は星の形成率の指標となる。また、GRBは遠方宇宙の光源としてその周辺を照らし出す。
 GRBの本体の爆発的γ線放射は全天を圧倒する強度であるため、人工衛星に搭載したγ線検出器で容易に検出できるが、γ線の到来方向を正確に決定するのは難しい。一方、可視光の残光は正確な位置がわからなければ、近傍の恒星や銀河に紛れて見つけるのは難しいし、時間がたつと急速に減光してしまう。従って、人工衛星側に爆発的γ線放射の検出・即時到来方向決定と地上への速報、地上では速報受信後直ちに可視光残光の追跡観測を行なう体制が必要とされる。
 本領域では、まず現在のSwiftによる位置速報を最大に活用するべく地上の観測体制と装置を整備し、研究期間内に遠方のGRBの観測と、それを解釈する理論の研究を進め、「太古の宇宙」の解読という課題に取り組む。それと並行し、Swift後のGRB観測が途切れないように人工衛星搭載用装置の開発を進める。

(2)研究成果の概要

 計画研究A01(X線・γ線観測)では、「すざく」など既存衛星による観測に加えて、新たに打ち上げられたFermi宇宙γ線望遠鏡による高赤方偏移かつ高ローレンツ因子を持つGRBの観測と、全天X線監視装置 MAXIの完成と運用開始などの成果を得た。また、GRB位置検出器、広帯域GRB分光器、およびX線カロリメータ用冷凍機の開発・試作を進め、それぞれ、小型衛星TSUBAME, ISS搭載実験CALET、およびASTRO-Hに搭載する装置へ応用された。
  計画研究A02(光学・近赤外観測)では、宇宙最遠方天体の記録を塗り替えた赤方偏移8.2のGRBを岡山1.88m望遠鏡で検出に成功するなど国内外望遠鏡による観測を進めた。この観測は、クェーサー、銀河を抜いて、ついにGRBが宇宙最遠部の観測データを提供したという歴史的出来事であった。また、ダークバーストが重元素組成の大きい銀河で発生したことを発見し、GRBの起源に新たな示唆を得た。並行して、「すばる」の観測装置の強化(新CCDや分光素子の導入)とGRB観測に対応した国内望遠鏡(ISAS 1.3m赤外望遠鏡、岡山91cm鏡など)の増強を行ない、GRBの観測を進めた。
  計画研究A03(理論)は、テレビ会議を用いた論文報告会(毎週)と研究報告会(毎月)を開催して連携をとりつつ研究を進めた。宇宙初期の大質量星の形成と進化についての新しい知見や、GRBの距離指標としての統計、GRBの親星と超新星の発生機構、GRBの放射機構などに関わる理論的研究の進展などの成果が得られている。
  総括班は、各年度当初の領域メンバー会議と、年度後半に開催する公開シンポジウムを開催して、領域内外の研究交流を深めている。また、平成22年4月には国際会議を開催し、約160名の参加(うち外国人がほぼ半数)を得て成功をおさめ、会議集録を発行した。

審査部会における評価結果及び所見

A(研究領域の設定目的に照らして、期待どおりの成果があった)

(1)総合所見

 ガンマ線、X線、光赤外線観測の連携により、当時、最遠方(z=8.2)のガンマ線バーストを発見したことは特筆に値する成果である。また、可視光で大変暗い「ダークガンマ線バースト」をすばる望遠鏡で確認し、爆発後の多波長観測による光度曲線から、重元素の多い環境で発生したことを突き止め、一年後の母銀河の観測で重元素が多いことを追確認したことは優れた成果である。領域代表者のリーダーシップにより、ガンマ線バーストという観測リスクのある研究をうまくまとめ上げ、ガンマ線バースト研究を天体物理の一分野として成長させたことは、高く評価できる。この特定領域が存在していたことにより、日本のガンマ線バースト研究全体が底上げされたことは間違いない。観測、理論の両方で多くの論文が出されており、加えて、2回の記者発表、国際シンポジウム開催など、業績は優れていると認められる。一方で、ガンマ線バーストを用いて「太古の宇宙を読み解く」という高い設定目標に対し、太古の宇宙の何がわかったのかが十分に示されなかった、という意見があった。分野が若く、発見のフェーズであり、物理が完成するフェーズではないことを鑑み、今後の一層の発展が期待される。光赤外における、光度曲線の観測網が世界中で整備されているが、その中で何がブレイクスルーになるか、日本の独自の観点の観測戦略を構築して欲しい。また若手研究者育成の観点から、領域設定期間中のポスドクの昇進が少ないことが問題であるという意見があったことを申し添えておく。

(2)評価に当たっての着目点ごとの所見

(a)研究領域の設定目的の達成度

 「その領域全体の学術的水準が高く、研究の格段の発展が期待できる研究領域」とした当該領域において、ガンマ線、X線、光赤外線観測の連携により、当時、最も遠方(z=8.2)のガンマ線バーストを発見したことは特筆に値する。また、可視光で大変暗い「ダークガンマ線バースト」をすばる望遠鏡で確認し、爆発後の多波長観測による光度曲線や一年後の母銀河の観測などから、重元素の多い環境で発生したことを突き止めたことは優れた成果である。これらの発見により、本領域研究が、世界のこの分野の研究に大きなインパクトを与えたと認められる。
 また、「研究の発展段階の観点からみて成長期にあり、研究の一層の発展が期待される研究領域」として、本領域研究期間中にMAXIが宇宙ステーションに設置され、優れた観測結果を出していることは評価できる。地上の光赤外線観測網も、感度向上などの整備が進み、国内での密接な連携により、より精密で途切れの無い多波長観測が可能になりつつある。衛星と地上観測の即時連携を進めるという目標をほぼ達成したと思われる。
 観測、理論を問わず、全体的に優れた成果が上がっているが、「太古の宇宙を読み解く」という高い目標設定に対して、星形成や元素の起源について何が明らかになったのか、当初の問題設定にどこまで迫れたのかが曖昧であるという意見があった。

(b)研究成果

 「その領域全体の学術的水準が高く、研究の格段の発展が期待できる研究領域」とした当該領域において、最遠方ガンマ線バーストとダークガンマ線バーストという2つの重要な発見を含み、観測、理論で多くの研究成果が出ている。これらは、2回の記者発表、多数の論文、国際シンポジウムで発表されており、優れた業績であると認められる。
 また、「研究の発展段階の観点からみて成長期にあり、研究の一層の発展が期待される研究領域」として、Swift-MAXI-地上望遠鏡ネットワークが完成してまだ1年であり、今後も多数のガンマ線バーストの詳細なデータが期待されるであろう。この分野での日本の国際的ステータスは、日本での国際会議で半数が外国からの参加者であることからもうかがえ、更なる国際協力、国際発信が期待される。

(c)研究組織

 特に問題点を指摘する意見はなかった。

(d)研究費の使用

 特に問題点を指摘する意見はなかった。

(e)当該学問分野、関連学問分野への貢献度

 ガンマ線バースト研究を天体物理の一分野として成長させたことは、意義のある貢献であると認める。若い分野に特定領域が立ち上がったので、世界的にプレゼンスの高い組織が出来上がったと考えられる。今後も成果が上がっていくであろうが、この重点領域が存在したことにより、日本の研究全体が底上げされたことは間違いない。光赤外線における、光度曲線の観測網が世界中で整備されているが、その中で何がブレイクスルーになるか、日本の独自の観点の観測戦略を立てることが今後重要になるであろう。

(f)若手研究者育成への貢献度

 特に大きな問題点を指摘する意見はなかったが、領域発足時にポスドクであった9名のうち、いまだに7名がポスドクを継続中であることについては、何らかの対策を講じるべきであるという意見があった。

(参考)

平成23年度科学研究費補助金「特定領域研究」に係る研究成果等の報告書(※KAKEN科学研究費補助金データベースへリンク)

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成24年02月 --