マイクロ波励起・高温非平衡反応場の科学-炭酸ガス排出抑制型新材料創成反応方法の開発-(佐藤 元泰)

研究領域名

マイクロ波励起・高温非平衡反応場の科学-炭酸ガス排出抑制型新材料創成反応方法の開発-

研究期間

平成18年度~平成22年度

領域代表者

佐藤 元泰(核融合科学研究所・装置工学応用物理研究系・教授)

領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 粉体やクラスターなどの不均一な物質に、ギガヘルツ帯の強い電磁波を照射すると、在来の化学反応法では低収率だった化合物の高収率化や新化合物の創成、従来加熱法より200?300度低い温度での焼結など、熱過程だけでは説明できない物性学上の現象が近年数多く報告されている。
 本特定領域で対象とするマイクロ波は、ボルツマン分布/プランク放射という光学領域の広い周波数スペクトラムと乱雑な位相を持つ熱振動と異なり、単色/同位相で、赤外・可視光の1/1000~1/10000の周波数を持つ電磁波である。マイクロ波のこの性質に着目し、本領域では媒質中の荷電粒子系や電子スピンに対するこの電磁波による運動励起、その運動から生じる仕事、そのエネルギーの変換過程のダイナミズムの解明を目指す。すなわち、レーザーのように高い光子エネルギーを持たないが、単色/同位相性を持つマイクロ波と物質の相互作用を、基礎学理に基づいて実験的・理論的に解明、同時にその成果を低炭素社会の実現に向けて工学的に発展させていくことがこの領域研究の目的である。

(2)研究成果の概要

電磁波励起による速度空間の非平衡・ミクロ構造の熱力学:
 物質の内部エネルギーUは、dU=dQ+dW で表される。ここで、右辺第1項は等方的なスカラー性を持つのが、第2項は周波数スペクトラムがデルタ関数的で異方性を持つベクトル場の量である。マイクロ波の電磁界の波長は、ナノスケールの固体・液体での結晶格子間距離、分子間距離に比べて十分に長いため、マイクロ波はミクロン以上の長距離にわたって物質に集団的摂動、すなわち超音波・マグノンなどの準粒子というベクトル場を誘起する。これが熱(フォノン)に緩和する前に、必要な化学的ポテンシャルの大きさまで累積されると、化学反応に対する活性化エネルギーの付与や、結晶構造のナノ化、過飽和固溶体の発現などの不可逆的変化を生み出すと考えられる。本領域では、実験研究を通して熱によらないエネルギー供給経路の存在を見出し、マイクロ波加熱が単なる従来熱源の置き換えではなく、新しい非平衡物性学への入り口にあることを明らかにした。このような基礎学理の究明と工学応用を両輪として、研究組織を編成し、異分野間の有機的な強い結合を実現した。5カ年間に、日本電磁波エネルギー応用学会の創設、日本学術振興会の先導的研究開発委員会の発足、関連学会のマイクロ波セッションの設置、日米欧亜にまたがる国際会議組織の発足など、既存の領域を超えて新しい学際研究が世界的に展開してきた。

審査部会における評価結果及び所見

C(十分な成果があったとは言い難い)

(1)総合所見

 本研究領域は、マイクロ波と物質との相互作用、非平衡加熱の物理に関して、マイクロ波の強度・波長・そして物質の持つ特性という観点から組織的に調べるという学術としての姿勢が明確でなく、また、理論と非平衡実験との対応も不明確であるため、領域研究としての方向性や学術的な成果がはっきりせず、当初の目的を達成したとは言い難い。また、基礎的理解が十分でないまま応用分野の研究が進められたため、学理の追及という観点が弱い。平成20年度、21年度の中間評価のコメントがその後の研究に反映されず、改善がなされていないのは残念である。 
 一方、応用分野において本領域の研究がもつ重要度は高く、その研究手法の中には有望なものもあると考えるという意見があった。

(2)評価に当たっての着目点ごとの所見

(a)研究領域の設定目的の達成度

 「研究の発展段階の観点からみて成長期にあり、研究の一層の発展が期待される研究領域」として、領域の目的設定は理解できるが、非平衡加熱のメカニズムの解明に関してこの領域研究において達成されたのかどうか判然としない。単純系を選択した実験をすべきところを、それを飛び越えて複雑系を対象としたために、解明すべきサイエンスにまで到達しなかったと判断される。同様に、マイクロ波加熱による特殊反応の機構を十分解明したとはいえないと思われ、成果が各論的であるという意見もあった。
 「その領域の研究の発展が他の研究領域の研究の発展に大きな波及効果をもたらす等、学術研究における先導的又は基盤的意義を有する研究領域」として、本領域の目的設定は先導的意義を有すると判断されるが、研究成果からどこに新しい物理があるのかを読み取ることは難しい。全体として、基礎研究への取り組みが十分とはいえないと評価する。
 「社会的諸課題の解決に密接な関連を有しており、これらの解決を図るため、その研究成果に対する社会的要請の高い研究領域」として、領域の対象は社会的要請の高いものであるが、基礎研究に関する不十分さ、基礎研究の応用研究への反映が不十分であること等、成果がその要請にこたえられるものではないと評価する。

(b)研究成果

 「研究の発展段階の観点からみて成長期にあり、研究の一層の発展が期待される研究領域」として、本領域の発足当時から今日に至るまで、研究がどのように発展したかについて、成果の発信が十分でないと評価する。
 「その領域の研究の発展が他の研究領域の研究の発展に大きな波及効果をもたらす等、学術研究における先導的又は基盤的意義を有する研究領域」として、非平衡加熱の物理の基礎研究に関して一定の進展は認められるものの、理論と非平衡実験との対応が不明確であり、当初の目的を解明したとは言い難いと評価する。
 「社会的諸課題の解決に密接な関連を有しており、これらの解決を図るため、その研究成果に対する社会的要請の高い研究領域」として、マイクロ波溶鉱炉を実証した点は評価できる。一方、応用研究のそれぞれが断片的な研究に終始し、研究者間の有機的な連携による成果が見いだせていないという意見があった。また、応用への指針が読みとれず、領域研究としては物足りなさを感じるという意見もあった。

(c)研究組織

 基礎研究と応用とが結びついておらず、理論と応用の連携が図られたのか疑問があるという意見があった。また、物理の研究者も加えたらよかったのではないかという意見もあった。

(d)研究費の使用

 特に問題点を指摘する意見はなかった。

(e)当該学問分野、関連学問分野への貢献度

 本領域における一部の成果は工学的な重要性はあると評価できる。一方、マイクロ波加熱の一般論の体系化に寄与したとはいえないという意見があった。

(f)若手研究者育成への貢献度

 特に問題点を指摘する意見はなかった。

(参考)

平成23年度科学研究費補助金「特定領域研究」に係る研究成果等の報告書(※KAKEN科学研究費補助金データベースへリンク)

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成24年02月 --