窒化物光半導体のフロンティア-材料潜在能力の極限発現-(名西 憓之)

研究領域名

窒化物光半導体のフロンティア-材料潜在能力の極限発現-

研究期間

平成18年度~平成22年度

領域代表者

名西 憓之(立命館大学・理工学部・教授)

領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 窒化物半導体は、その優れた物理的特徴から青色・緑色発光ダイオード、白色光源、青紫色レーザなどを次々と実現し、社会の発展に大きく寄与してきた。しかし、窒化物半導体のもつ材料本来の能力(ポテンシャル)からすれば、これまで開発された技術の範囲はそのほんの一部でしかない。本研究領域においては、材料、物性、デバイスの全ての階層での全波長領域(紫外域~赤外域)にわたる研究に取り組むことによって、「新規結晶成長技術の開発」と「欠陥物理と発光機構、不純物活性化機構の解明」を進め、窒化物半導体が本来持つ優れた潜在能力を極限まで引き出すことを目指している。そして、結晶成長や評価の研究を横断的に進める中で、基礎を理解し、デバイスとしての可能性を広げるための科学的・技術的基盤を築くことを目的としている。
 本研究領域の遂行により、短波長側では超高密度光記録装置、殺菌、生物医療機器、固体照明用光源など新しい重要な適用領域が大きく広がることになる。一方長波長側においても、窒化物半導体のカバーする波長領域が近赤外領域側にも拡大され、光通信波長帯を含む赤外光デバイスへと適用領域が大きく広がることとなる。さらに変換効率50%を超えるような超高効率太陽電池実現も夢ではなくなる。窒化物半導体による新しい光エレクトロニクス領域の開拓は、21世紀のエネルギー、情報通信、環境、健康・医療などの課題解決の観点から、その効果の大きさは計り知れないと言えよう。

(2)研究成果の概要

 本特定領域では、結晶成長技術、物性評価、短波長デバイス基盤技術、長波長デバイス基盤技術の4項目において、13件の計画研究、のべ14件の公募研究を組織し、窒化物半導体の潜在能力発現に向け、研究活動に取り組んだ。
 「結晶成長技術」では、DERI法、パルス励起堆積法、原料分子制御HVPE法など新しい結晶成長技術の開発により、世界最高レベルの高品質結晶を実現するだけでなく、広い波長領域に対応した混晶組成の実現やp型伝導制御など、発光デバイス応用への新しい可能性を示す成果も得られた。
 「物性評価」では、広波長・局所領域分光、点欠陥検出など多岐に渡る高度評価手法を開発し、AlNからInNまで横断的検討を行った結果、高効率輻射を実現する量子井戸構造の解明、InNのpn接合と光通信波長帯発光の達成など窒化物の能力が顕示され、欠陥構造や非輻射再結合過程の解明により能力発現の本質的課題を明らかにした。
 「短波長デバイス基盤技術」では、AlN、AlGaN結晶高品質化、p型AlGaN低抵抗化、多重量子障壁導入など、紫外LD、LED実現のための基幹技術を数多く確立した。特に紫外LED開発においては、波長237 nmで世界最高CW出力4.8 mWが得られるなど、222-351 nm波長帯で世界最高クラスの性能を実現した。
 「長波長デバイス基盤技術」では、InGaN系規則配列ナノコラムを用いた最長波長566 nmでの光励起レーザ発振、世界初のInGaN系LED赤外域(1.46 μm)電流注入発光、世界初のn-InAlN/p-InGaNヘテロ接合太陽電池動作実現など、長波長域での窒化物半導体光デバイス創成の可能性を示した。

審査部会における評価結果及び所見

A(研究領域の設定目的に照らして、期待どおりの成果があった)

(1)総合所見

 本研究領域が対象としている窒化物光半導体に関する取り組みは社会的にもインパクトがあり、工学的観点から、この領域の研究展開は高く評価できる。特に、LEDをはじめ、画期的なデバイスの実現に成功していることは特筆に値する。中間評価では学術的側面が弱いとの指摘があったが、理論的検討に関する研究者の協力を得て、最終的にこの点は改善されていると判断できる。本研究領域の成果の多くは将来性があり、今後とも次世代につなげる展開を期待する。

(2)評価に当たっての着目点ごとの所見

(a)研究領域の設定目的の達成度

 「その領域の研究の発展が他の研究領域の研究の発展に大きな波及効果をもたらす等、学術研究における先導的又は基盤的意義を有する研究領域」に関して、本領域の目的は、広い波長範囲での発光をカバーする結晶成長技術、デバイス技術等を世界に先駆けて開発・体系化しようとするもので、先導的研究としての意義は大きい。また、着実な研究の進展と成果が得られていると評価できる。
 「社会的諸課題の解決に密接な関連を有しており、これらの解決を図るため、その研究成果に対する社会的要請の高い研究領域」の観点において、本領域の目的は社会的要請と合致しており、本領域の活動を通し、基礎から応用可能な技術的側面までバランス良く目標が達成されたと評価できる。

(b)研究成果

 「その領域の研究の発展が他の研究領域の研究の発展に大きな波及効果をもたらす等、学術研究における先導的又は基盤的意義を有する研究領域」および、「社会的諸課題の解決に密接な関連を有しており、これらの解決を図るため、その研究成果に対する社会的要請の高い研究領域」の両観点において、本領域は明確な目標を設定し、着実に成果を上げていると評価できる。特に、開発という観点のみならず、基礎的なところでも成果があり、期待通りの進展が認められる。

(c)研究組織

 特に問題点を指摘する意見はなかった。

(d)研究費の使用

 研究費の使用に関しては特に問題点を指摘する意見はなかった。

(e)当該学問分野、関連学問分野への貢献度

 発光デバイスの開発に対して基礎的な重要な貢献をなしており、今後の発展的実用化が期待できる。

(f)若手研究者育成への貢献度

 若手研究者の育成も十分に考慮されており、特定領域としての貢献度は高いと判断できる。

(参考)

平成23年度科学研究費補助金「特定領域研究」に係る研究成果等の報告書(※KAKEN科学研究費補助金データベースへリンク)

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成24年02月 --