研究領域名:東アジアにおけるエアロゾルの大気環境インパクト

1.研究領域名:

東アジアにおけるエアロゾルの大気環境インパクト

2.研究期間:

平成13年度~平成17年度

3.領域代表者:

笠原 三紀夫(中部大学・総合工学研究所・教授)

4.領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 地球温暖化、酸性雨など地球規模の大気環境問題が、人類の生存にも係わる地球環境問題として大きな関心を呼んでいる。特に東アジア地域においては、急激な経済発展に伴う大気環境の急速な悪化が予想されており、早急な環境対策が迫られている。
 エアロゾルは、これら地域~地球規模の大気環境問題に直接、間接的に深く関わっていることが明らかとなっているが、エアロゾルの性状はきわめて多様で複雑な上に、地域的にも時間的にも大きく変動することなどから、エアロゾルの大気環境インパクトに関する知見ははなはだ乏しく、現象の解明や影響度合いを定量的に評価することが急務となっている。
 本特定領域研究では、東アジアにおけるエアロゾルの性状と動態を明らかにし、地球温暖化や酸性雨に及ぼすエアロゾルの影響を明らかにするため、(1)東アジアにおける大気エアロゾルの空間分布、(2)エアロゾルの計測と大気中における二次粒子生成など基礎研究、(3)エアロゾルの長距離輸送と酸性雨・酸性沈着、(4)エアロゾルの地球温暖化/冷却化効果、に関わる現象・影響解析を行い、エアロゾルの大気環境インパクトを定量的に評価することを目的とし、以下の4研究項目を推進した。
 研究項目A01:東アジアにおける大気エアロゾルの空間分布
 研究項目A02:大気エアロゾルの性状と二次粒子生成
 研究項目A03:東アジアにおける大気エアロゾルの輸送と酸性雨・酸性沈着
 研究項目A04:大気エアロゾルの地球冷却化効果

(2)研究成果の概要

1)東アジア地域における通常観測に加え、中国上空を含むエアロゾルとその前駆物質の集中観測(航空機、観測船、日中韓3国における地上観測、日中韓12ヶ所に設置した自動連続ライダーネットワーク観測、バルーン観測、人工衛星データ解析)、数値シミュレーション等を実施し、東アジア地域内における大気エアロゾルの3次元分布、動態を明らかにした。
2)大きさが1ナノメートルから2マイクロメートルの範囲の粒度分布測定が可能な超微細粒径測定システムや個々の粒子の元素分析・化学状態分析が可能な個別粒子分析システムなどを開発し、大気エアロゾルの性状分析や変質の解析、またSO2、NOx、有機ガスを含む混合ガス系からの二次粒子生成・成長実験等に応用し、エアロゾルの性状特性や二次粒子生成機構を明らかにした。
3)乾性沈着に対する緩和渦集積法、湿性沈着に対する雲粒・雨滴の固形化+個別分析法などを確立し、沈着機構を解明するとともに、アジア地域内の実測データ、およびエアロゾル輸送・変質・沈着シミュレーションモデルを用い東アジア地域内の現在、将来の酸性沈着量を推定し、その季節的変動、地域・国別寄与を明らかにした。
4)エアロゾルの光学的厚さ、光学特性の広域分布の観測に基づくエアロゾルの温暖化/冷却化への直接効果、立坑を利用した人工雲実験に基づく間接効果を解明した。また、観測データ、衛星データ、シミュレーションによる濃度分布・光学特性データを用い、東アジア地域における現在・将来の直接・間接効果を推定・評価した。

5.審査部会における所見

A(期待どおり研究が進展した)
 本特定領域研究では、中国・韓国との共同研究体制を構築し、それにより東アジアでの航空機観測、ライダーネットワーク観測など、観測面で大きな成果を上げたことは高く評価される。観測・測定法の開発や高度化にも進展が見られた。研究組織を変更し、観測成果とシミュレーションとの融合が図られたことも評価できる。但し、設定目的の達成度では不十分な点も見受けられる。今後、観測データのとりまとめなど研究の進展をはかるとともに、観測データに基づいた環境改善の提言を具体的にまとめることを期待する。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --