研究課題名:低分子量G蛋白質Rhoの情報伝達と生理的意義の研究

1.研究課題名:

低分子量G蛋白質Rhoの情報伝達と生理的意義の研究

2.研究期間:

平成13年度~平成17年度

3.研究代表者:

成宮 周(京都大学大学院医学研究科・教授)

4.研究代表者からの報告

(1)研究課題の目的及び意義

 私達の体は細胞から成るが、体が正常に機能するには、夫々の細胞が各々の場所と役割に見合った形をとり、刺激に対して反応し、場合によっては、ある場所から別の場所に移動したり、分裂を起こし増殖したりすることが重要である。細胞の形を決めているのは、細胞骨格という繊維状の蛋白質である。これには、アクチンやチュブリンという蛋白質があり、これらが重合して各々、アクチン繊維や微小管という構造を形成する。これらの細胞骨格は、また、細胞の移動にも、細胞の分裂にも重要な役割を果たす。細胞骨格が正常に形成され働くことは、例えば、体が正常に発生したり、神経細胞が神経伝達にふさわしい形をとったり、免疫細胞が体の中をパトロールするのに大事であるし、反対に、細胞骨格の異常は、例えば、がんの発生や転移に関係する。これらの過程では、細胞のなかの分子スイッチがオンになり、これが細胞骨格の組織化を誘導して細胞の形態を変えたり、移動をおこしたりする。本研究の代表者は、これまで、この分子スイッチのひとつがRhoと呼ばれる蛋白質であること、Rhoの下でmDiaやROCKという蛋白質が働いて特定の形をもったアクチン細胞骨格を誘導することを明らかにしていた。今回の研究では、mDiaやROCKの機能を解析して、細胞骨格、特に、アクチン繊維がどのようにして作られるのか、また、アクチンと微小管がどのように相互作用するのか、また、これらが、細胞が形を変えたり、移動したり、分裂したりするとき、どのように働くのかについて検討した。

(2)研究成果の概要

 まず、mDia蛋白質の構造と機能を解析し、これが、2量体を形成しアクチンの重合を促進して、細胞内で長い真直ぐなアクチン繊維の形成を行うことを明らかにした。細胞の中には、真直ぐなアクチン繊維と網目状のアクチン繊維があるが、本研究により、mDiaが前者を形づくる基本的なアクチン重合因子であることが確立された。ついで、このアクチン重合因子であるmDiaの細胞分裂での働きを解析した。mDiaには、遺伝子が異なる3つのアイソフォームがあるが、これにより、mDia3がRho類縁蛋白質Cdc42の下で分裂中期の染色体分離に働くこと、これに対してmDia1と2は、分裂前期で働き、紡錘体の向きをアクチン依存性に決定して分裂軸を決めていることを明らかにした。即ち、これにより、アクチン繊維と微小管の統合制御機構の一端が明らかになった。本研究では、さらに、mDiaやROCKによるアクチン繊維や微小管制御の意義を解析し、mDiaが、アクチン繊維を介して蛋白質リン酸化酵素c-Srcの細胞内局在を決めRho類似蛋白質であるRacを活性化すること、この経路が細胞の伸張や神経突起形成に働くのに対し、ROCKはこれを抑制して細胞の収縮、神経突起の退縮に働くことを明らかにした。さらに、グリオーマを対象にがん細胞の移動機構を検討し、mDiaが微小管を介して移動の方向性を、上記のアクチンからc-Srcを介する経路で細胞体の移動を制御していることを明らかにした。また、ROCKの遺伝子欠損マウスを作出し、ROCKが、眼瞼や腹壁でのアクチン束の形成を介して発生時の体壁閉鎖に働いていること、ROCKのこの働きが無いと閉眼異常や臍ヘルニアが惹起されることを明らかにした。

5.審査部会における所見

A+(期待以上の研究の進展があった)
 本研究では、低分子量Gタンパク質Rhoの下流で機能するmDiaの解析を中心に、アクチン重合、染色体動態の制御といった細胞機能の基本原理の一端が解明された。特に、mDiaがアクチン繊維のみならず、細胞分裂における微小管の統合制御に関与することを明らかにした業績は際立っており、細胞生物学にとどまらず、免疫学、神経生物学等、他の研究分野にもインパクトを与える研究へと発展した。培養細胞の研究から、遺伝子ノックアウトマウスの作製を介した個体レベルの研究でも成果を上げつつあり、これからの成果に期待ができる。国際的な一流誌に多数の論文がコンスタントに発表されており、こうした成果は国際的にも高く評価されている。研究の達成度は高く、Rhoタンパク質について接着・分裂などを含めた基礎知見を基に、将来、免疫も含めた医学応用に貢献すると期待される。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --