研究課題名:染色体の動態制御機構による多様な生命体の維持・継承

1.研究課題名:

染色体の動態制御機構による多様な生命体の維持・継承

2.研究期間:

平成13年度~平成17年度

3.研究代表者:

柳田 充弘(京都大学大学院生命科学研究科・教授)

4.研究代表者からの報告

(1)研究課題の目的及び意義

 全ての生命の設計図はDNAに刻まれているが、その遺伝情報が正しく維持され、そして正確に子孫に継承されるためには、DNAは染色体として核内に存在する必要がある。染色体は、DNAと多数の蛋白質やRNAなどの機能分子が集合してできた巨大な複合体である。その一方で、染色体は細胞周期で複製・分配が整然と行われることに代表されるように、全体として見事に統一された挙動を示す。個体が発生し種が維持されるためには、この染色体の維持・継承が不可欠である。染色体研究には二つの特筆すべき重要性がある。第一に、染色体はすべての生物の世代を越えて伝わる生命の設計図そのものであり、その構造と挙動のメカニズムの理解はすべての生命体の維持と継承を理解することに直接的につながる。第二に、染色体機能は少数分子の単純な反応によって決定されるのではなく、多数の機能分子、染色体DNAの機能ドメインが相互作用をしながら染色体全体の挙動を決定するという点において極めて興味深い構造体である。このような複雑系としての染色体を把握するための研究は21世紀において脳研究と並んで重要性を持つものと言える。さらに大切なことはこの染色体構造と機能の普遍性であり、下等なものから高等な生物のすべての細胞内で進化的に保存された類似の遺伝子群が機能している。本COEプロジェクトでは、多様な生命体の維持・継承の根幹である、精密な染色体のダイナミックスの制御と染色体構造維持との理解を研究目的とする。

(2)研究成果の概要

 本COEプロジェクトは、染色体の維持・継承機構を理解するうえで重要な研究結果を出した。分裂酵母とヒト細胞両方で、動原体で働く多数の新規因子を同定し、機能解析を行った。動原体以外の領域はヒストンH3が染色体を構成するのに対し、動原体領域はH3の代わりにCENP-AがDNAに結合する。このCENP-Aを動原体領域にのみロードする階層的な機構を解明したことは特に重要である。また、コンデンシン、コヒーシンとその制御因子(セキュリンおよびセパレース)がM期における機能に加えて、間期においてもDNA修復に関与することを明らかにしたこと、相同組換えのDNA合成のステップに使われるDNAポリメラーゼを明らかにしたことも大きな成果である。さらに本COEグループでは、分裂酵母、カエル卵(in vitro)、ニワトリ体細胞株、ヒト細胞を用いて、染色体に関連する各生化学反応と各反応間の密接な相互作用とを統合的に解明できた。また、ユニークな原子間力顕微鏡(AFM)を使い、従来の電子顕微鏡では解析できなかった水溶液中でのタンパク複合体の動態を、時間および空間的に高い分解能で調べることに成功した。新たなモデル生物として、メダカで任意の遺伝子を破壊する実験系を樹立することにも成功した。

5.審査部会における所見

A+(期待以上の研究の進展があった)
 多様な生命体の維持・継承の根幹である精密な染色体のダイナミックスの制御と染色体構造維持の理解を目的とした研究がなされた。分裂酵母とヒト細胞において動原体で働く相互作用分子についての機能解析が行われ、動原体領域はヒストンH3の代わりにCENP-AがDNAに結合し、さらにCENP-Aを動原体領域にのみロードする階層的な機構を解明したことは特に優れた成果であり意義は大きい。細胞の生命維持に基本的な染色体の動態制御に関する研究が、多彩にかつ国際的に高いレベルで進展しておりまさに目的どおりの拠点形成ができつつあると極めて高く評価される。さらに組織の運営において若い研究者への配慮が十分で、人材育成にも貢献している点でも評価したい。またこれらの成果はトップレベルの雑誌に精力的に公表されており期待以上に研究の進展があった。なお、拠点となる組織が所属する研究機関からこのCOE拠点形成プロジェクトに対して、必ずしも十分な支援がなかったのではないか、という指摘が一部にあったことを付記する。

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研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --