研究課題名:中枢シナプス生後発達分化の細胞分子メカニズム

1.研究課題名:

中枢シナプス生後発達分化の細胞分子メカニズム

2.研究期間:

平成13年度~平成17年度

3.研究代表者:

高橋 智幸(東京大学大学院医学系研究科・教授)

4.研究代表者からの報告

(1)研究課題の目的及び意義

 シナプスは形成後も個体発生に伴って変貌を遂げ、様々な神経機能に適した特性を獲得する。その背景にはシナプス伝達・調節に関与する分子群の消長と、その結果生じるシナプス伝達効率の変化が存在する。本研究は生後発達変化に伴うシナプス伝達効率およびシナプス特性の変化と神経終末端および後シナプス膜に発現する分子の関連性を解析することによってシナプス伝達・調節の分子基盤を明らかにすることを目的とする。シナプス伝達効率は脳神経機能の要であり、その生後発達変化の分子機構の解明は脳神経機能の分子機構の重要課題である。本研究計画は過去の研究結果から生じた疑問に基づいて立案されており、自ら開発したスライスパッチクランプ法に分子生物学の手法を組み合わせることによって研究を進める。この研究によって、シナプス機能の生後発達に伴う分子機構を明らかにし、特に研究が困難とされる前シナプス伝達調節機構・可塑性機構に関して、新たな知見を得ることを目指している。

(2)研究成果の概要

 (1)シナプス伝達基礎メカニズム【1】シナプス小胞のグルタミン酸はレセプターを飽和しない(小胞内伝達物質量が伝達効率を変えうる)。【2】伝達物質の量子的放出が中枢シナプスにおいても成立する(伝達効率変化を素量子仮説理論で解析可能)。(2)シナプス伝達物質放出メカニズム【1】放出制御を行う電位依存性Kチャネルサブタイプと役割を明らかにした。【2】シナプス小胞エンドサイトーシスはdynaminに媒介される。(3)伝達物質放出修飾メカニズム【1】Gタンパク質共役型受容体の活性化に伴う電位依存性Caチャネルの抑制、伝達物質放出抑制は‥‥サブユニットに媒介される。【2】イオン透過型AMPA受容体がGタンパク質と共役する。【3】神経終末端内のcAMP濃度が上昇すると、A-kinaseではなくEpacが活性化して、開口放出が促進される。【4】PKCの活性化に伴う伝達物質放出促進は・PKCの終末端への移動を伴う。【5】頻回刺激依存性Ca電流増強はNCS-1によって媒介される(シナプス増強の分子メカニズム)。(4)伝達物質受容体の生後発達変化【1】NMDA受容体が聴覚活動依存性に生後発達に伴って減少し、それによって高信頼性の高頻度シナプス伝達が可能になる。【2】AMPA受容体チャネルの開口時間と脱感作時間が生後発達と共に短縮し、それによって興奮性シナプス応答電流の時間経過が短縮する(高精度伝達の獲得)。(5)生後発達に伴って伝達物質放出確率、cAMPによる放出促進、アデノシンによる放出抑制が減少する(シナプス機能分化)。

5.審査部会における所見

A(期待どおり研究が進展した)
 生後発達にともなう中枢シナプス伝達・調節に関与する分子群の消長と伝達効率の変化について、期待通りの優れた成果を着実に生み出した。特に、シナプス伝達物質放出メカニズムを含む前シナプス伝達調整機構に関する研究は極めて独創性が高く、特別推進研究にふさわしい世界をリードする成果として高く評価される。今後、シナプス伝達メカニズムの変化を導く分子生物学的基盤や、さまざまな病態との関連についての研究が進めば、医療面への応用など新しい展望も広がることが予想される。一層の研究の推進を期待したい。

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研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --