研究課題名:ユビキチンとプロテアソームによる蛋白質分解研究

1.研究課題名:

ユビキチンとプロテアソームによる蛋白質分解研究

2.研究期間:

平成13年度~平成17年度

3.研究代表者:

田中 啓二(財団法人東京都医学研究機構東京都臨床医学総合研究所・参事研究員)

4.研究代表者からの報告

(1)研究課題の目的及び意義

 細胞内において蛋白質は動的状態にある。実際、全ての蛋白質は固有の寿命があり、それらは数分から数ヶ月と千差万別である。この蛋白質の寿命、即ち蛋白質の死が生物学的に重要であるという新しい概念は、ユビキチン(蛋白質の分解シグナル分子)とプロテアソーム(真核生物のATP依存性プロテアーゼ複合体)の研究から提唱された。この蛋白質分解システムは従来にない大掛かりな細胞内装置であり,多様な生体反応を迅速に、順序よく、一過的にかつ一方向に決定する合理的な手段として生命科学の様々な領域で多用されている。実際、蛋白質分解は、単に有害な不良品分子の除去を行うだけではなく、良品分子であっても不要な(細胞活動に支障をきたす)場合、あるいは必要とする栄養素(アミノ酸)や代謝エネルギーの確保のために、積極的に駆動される。即ちユビキチンとプロテアソームによる蛋白質分解は、細胞における蛋白質の動態調節と恒常性維持において必須な役割を担っている。しかしその作動原理の詳細は依然として不明である。本研究では、ユビキチンとプロテアソームが生命現象の制御に果たす多彩な役割について、分子から個体レベルに至る包括的研究を推進し「蛋白質の輪廻転生」の謎に迫ることを目標にしている。と同時に蛋白質分解系の破綻によって発症する様々な重篤疾病(癌・神経変性疾患・免疫病等)の原因解明とその治療法・予防法の開発に貢献することも大きな研究目的である。

(2)研究成果の概要

 本研究期間内にユビキチンとプロテアソームについて包括的研究を行った。ユビキチン研究の中心はユビキチンリガーゼ(E3)であり、我々は糖鎖を識別するユニークなリガーゼSCFFbs1/2を見出し、その作用機構、異常糖蛋白質のERAD(小胞体関連分解)における処理機構、そして立体構造の解析に成功し、燦然と輝く業績を挙げた。また家族性パーキンソン病の原因遺伝子産物パーキンの研究では、触媒機能の実体、正負の活性調節機構を見出すなど独自の研究を展開した。さらにNedd8やUfm1などユビキチン類似の新しい翻訳後調節システムを発見し、発生工学的研究によりその生物学的重要性を証明した。一方、プロテアソーム研究に関しては、哺乳動物酵素の立体構造の解明や免疫生物学的役割など分子から個体レベルに至る多面的研究に邁進して多くの新知見を得た。特筆すべき成果は、巨大な多成分複合体であるプロテアソームの分子集合機構の解明に成功したことである。我々は哺乳動物プロテアソームの分子集合に関わる特異的分子シャペロンPAC1(Proteasome Assembling Chaperone 1)とPAC2から構成された異型二量体を発見、その機能解析に成功してプロテアソームの「逐次的多段階分子集合モデル」を提唱した。さらにオートファジー(自食作用)不全を自在に誘導できる条件的ノックアウトマウスの作出に世界で最初に成功した。そして基礎的に作動する恒常的オートファジーが欠失すると、肝障害や神経変性疾患が発症することを突き止め世界に衝撃を与えた。

5.審査部会における所見

A(期待どおり研究が進展した)
 研究代表者らはプロテアソームの基礎研究で世界をリードしており、2000年にパーキンソン病の責任遺伝子Parkinがユビキチンリガーゼであることを証明して以来、ユビキチンとプロテアソームによるタンパク質分解系を介した新たな生命現象を次々に発見してきた。これらの研究成果は生命原理の解明にもつながるものとして、また、人類の健康維持へ貢献するものとしても評価され当初の期待通りの研究目標に達した。研究はユビキチン研究、プロテアソーム研究、オートファジー(自食作用)研究に分類される。ユビキチン研究では、Parkinのリガーゼ作用の解析、タンパクの品質評価を行うユビキチンリガーゼCHIPのKOマウスを用いた機能解析、糖鎖識別ユビキチンリガーゼファミリーの新たな発見と構造解析などが行われた。プロテアソーム研究では新規シャペロンPAC1,2の発見、胸腺特異的プロテアソームの発見などがなされた。オートファジー研究ではKOマウスを作製することで肝細胞、ニューロンでプロテアソームを介したオートファジーが不可欠であることが明らかにされ、特に神経系の臨床分野への情報発信が期待される。これらの成果は、ユビキチン-プロテアソーム系を介して行われる細胞周期、DNA修復、転写制御、ストレス応答に加え、新に神経疾患、免疫応答におけるタンパク質の品質管理の重要性を示したものであり、国際的に評価の高い良質の研究雑誌に数多く論文がある。本研究では多数の共同研究が行われており、優れた人材が育成されていることに加え、優れた研究ネットワークを有していると察せられる。今後の展開では、本分野の世界拠点のひとつとして、より焦点を絞った研究戦略をたて、他が追随できない新たな研究のフロンティアを作り上げることを期待する。

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研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --