研究課題名:極限的短パルス光の発生とその物質との相互作用

1.研究課題名:

極限的短パルス光の発生とその物質との相互作用

2.研究期間:

平成14年度~平成17年度

3.研究代表者:

小林 孝嘉(東京大学大学院理学系研究科・教授)

4.研究代表者からの報告

(1)研究課題の目的及び意義

 科学・技術推進の4本柱の一つであるナノ科学・技術の進展のために、ナノ特有の現象の機構解明が不可欠である。そのためには、現象を素過程に分解しその動力学を探求することが最も直接的な手法である。従ってナノ物質系を時間分解して計測するフェムト秒科学は、本質的にナノスケール科学の最重要研究対象の一つとなる。またこの技術はバイオ・医療技術や情報科学との深い関連も指摘する事が出来る。本研究の目的は、(1)極限的超短パルスの発生、(2)超短パルス特性新計測法の開発、(3)遷移状態分光法の確立、(4)物質・超短パルス相互作用の解明である。1)2fs台の(サブ2サイクルパルス)長時間安定でかつ、種々の線型・非線型分光に適した特性を有する超広帯域(400THz(テラヘルツ))の世界最短パルスレーザーを開発する。2)高速・簡便な極限的短パルス測定法を開発し、それによって測定されたパルスの位相情報をフィードバック制御に用いることで、レーザーの最適化・安定化を図る。3)物質との相互作用、特に基底及び励起電子状態の超高速分子振動ダイナミックスを研究する。これまで測定することが極めて困難、あるいは不可能と考えられていた極短寿命中間体・遷移状態の分子振動の振幅・位相・瞬時周波数を決定する。4)光の1~2周期の幅をもつ極超短パルスと物質の相互作用、特に非線型光学効果は通常の長パルスの非線型光学効果と異なった現象が見られる事が期待されている。これがどの程度の効果として現れるかを、理論・実験を通して明らかにする。これらのことを世界に先駆けて研究対象とする。

(2)研究成果の概要

 フォトニッククリスタルファイバー(PCF)を用いたNOPA出力パルスのCEP自己安定化の評価を行い、高い安定性を有することを確認した。NOPAアイドラ出力光の搬送波包絡位相(CEP)の受動安定化を理論的に予言し、PCFを用いてCEP自己安定化の評価を行う事により実験的に証明した。このレーザーシステムを用いた絶対位相光ポーリング実験を行い、絶対位相による分子配向誘起効率の制御を行った。これらの実験は、これまでの「数サイクル程度の超短パルスの場合にのみCEPが有意でありそれを測定するには超高強度超短パルスが必要である」という二つの常識を覆すものである。超高速分光技術を使用した遷移状態分光法を開発し、多様な試料における動的過程を解明した。その中には、共役高分子、ハロゲン金属混合原子価錯体、J会合体等の低次元系につき種々の新しい動的過程を発見した。さらに、ロドプシン・バクテリオロドプシン等生体高分子の光整理初期過程を解明し、光生物機構の本質に迫った。特に、プローブ光の波長依存性を詳細に調べることで電子励起・基底状態の寄与を分離することが必要になる。これを、スペクトル情報の多次元的解析により達成できた。

5.審査部会における所見

A(期待どおり研究が進展した)
 独創的な手法によって極限的超短パルスの発生と計測法を実現し,超高速励起状態ダイナミックスの研究に応用することにより,多くの分子系で重要な知見が得られたことは高く評価できる。中でも、超短パルスの絶対位相安定化の成功は特筆に価する成果である。研究成果の発表も積極的に行われており、当初の目的が概ね達成されている。多くの互いに矛盾する困難さを克服して,世界トップデータの超短パルス発生装置,新しい絶対位相測定装置を完成した成果は,超短パルスの発生,計測,応用に有力な新技術を提供するものであり,関連する物理,化学,生体物質の光励起の遷移状態における超高速ダイナミクス現象解明への波及効果が期待できる。本研究で得られた成果は国際レベルで先導的であり、期待通りに研究が進展したものと判断した。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --