研究課題名:モンテカルロ殻模型

1.研究課題名:

モンテカルロ殻模型

2.研究期間:

平成13年度~平成17年度

3.研究代表者:

大塚 孝治(東京大学大学院理学系研究科・教授)

4.研究代表者からの報告

(1)研究課題の目的及び意義

 本研究計画では、モンテカルロ殻模型により不安定核を含む広範な原子核の系統的、統一的研究を遂行し、量子多体系としての原子核の未知の構造を明らかにし、核力のより完全な姿を探るのを基本目的とした。さらに、不安定核で現れてくるであろう新しい多体秩序を解明していくことを目指した。
 代表者と共同研究者グループは量子多体系の構造を微視的に明らかにする理論的手段として、量子モンテカルロ対角化法を提案、発展させてきた。この方法では、通常の量子モンテカルロ計算とは異なり、負符号問題がない、物理系が満たすべき対称性(回転対称性など)が正確に保存させられる、励起状態も扱え、波動関数が求められる、などの様々な特徴がある点が独創的である。代表者らは、本研究計画で、原子核における殻模型の計算にこの方法を適用し、原子核の量子多体系としての内部構造を解明してきた。本研究計画の表題であるモンテカルロ殻模型とは量子モンテカルロ対角化法の原子核へのこのような応用を指す。モンテカルロ殻模型は旧来の殻模型計算の限界を大きく破り、多体波動関数のヒルベルト空間の次元が1兆を越えるような極めて大きな量子多体系が扱えるという特色を持ち、過去数年間、RIビームによって研究が進みつつある不安定原子核の内部構造解明など、世界の原子核構造研究に非常に大きなインパクトと貢献を与えた。

(2)研究成果の概要

 量子多体系の数値シミュレーションに必要な演算用CPU232台から成る並列計算機を整備し、様々な原子核について研究してきた。モンテカルロ殻模型の特徴を活かして、他ではできない様々な計算を行った。例えば、陽子数Zが10前後の原子核では、長く信じられてきた中性子数N=20魔法数が消え、代わりにN=16という新しい魔法数が現れてくるメカニズムの解明とそれによる原子核のエネルギー準位やモーメントへの影響の定量的な評価、さらにそのような魔法数の入れ替えが起こる範囲の予言を行った。Pf殻原子核の最初の統一的な記述に初めて成功し、ガモフテラー遷移の計算及びそれらの天体核物理への応用も行った。質量数が130前後の重い原子核のエネルギーレベル、電磁遷移やモーメントの計算が可能になり、初めて理論計算を行い実験データを説明できた。3角形をした原子核の発見、などにも成果があった。また、テンソル力による殻進化の発見、さらにそれの帰結として不安定核の構造が核力で大きく変わることを示した。70本の原著論文(掲載決定のものを含む)が出版され、トップクラスの学術誌にも多くの論文が掲載された。国内外の研究グループとの共同研究が発展しつつあり、78回の招待講演を含む国際会議で多数の成果発表も行って世界の研究活動に貢献している。研究の発展と多様化に対応して、若手研究者の育成も行い、計画完了時には国際シンポジウムを開催した。

5.審査部会における所見

A(期待どおり研究が進展した)
 本研究では,大型の並列計算機システムを構築し,そのシステムにより独創的なモンテカルロ殻模型計算を行い,原子核構造に関する系統的な研究がなされ,不安定核の構造変化のメカニズムの解明やpf殻原子核の統一的理論記述など,様々な新知見を見いだしてきた。また,国内外の実験研究者との共同研究も推進され,理論計算と実験データとの整合性も認められてきている。これらの成果は国際的にも高く評価されていて,当該分野や関連分野への貢献度も高い。このことから,期待通りに研究が進展したと判断した。今後,本研究での計算手法の有効性が生かされ,他分野への応用も進展することが期待される。

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研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --