研究課題名:複合自由度をもつ電子系の創製と新機能開拓

1.研究課題名:

複合自由度をもつ電子系の創製と新機能開拓

2.研究期間:

平成13年度~平成17年度

3.研究代表者:

高畠 敏郎(広島大学大学院先端物質科学研究科・教授)

4.研究代表者からの報告

(1)研究課題の目的及び意義

 すきまと電子系の複合自由度を活かした物質を創製し,温度,電場,磁場,圧力,光,水素などに対する応答機能を評価し,その機能発現機構を解明するとともに,敏感な応答をエネルギー変換などの新しい機能として開拓することを目的とした。創製しようとした物質群とその機能は,主に次の三つである。(1)炭素やリチウムなどの軽元素を主要素とする物質をナノ構造化して水素を高濃度に貯蔵・放出させる。(2)ホウ素,窒素,酸素,ケイ素などを骨格に含む物質に電子をドープして高温超伝導を発現させる。(3)価数の不安定な希土類を含む化合物において,優れた熱電冷却特性を発現させる。
 これらの物質群の構造的特徴は,層状,カゴ状,ハチの巣状の母体をもつことであり,そのすきまに原子や分子を挿入することによって新機能を開拓できる。また,挿入されたイオンのもつ多極子や非調和振動の自由度を活かした新物性も期待できる。
 新機能を開拓しその発現機構を解明するために,固体物性・分光学的測定と理論解析・量子シミュレーションを行う。低温・高圧・磁場下でのバルク物性測定に加えて,ラマン分光,トンネル分光,核磁気共鳴等によるミクロな情報,及び放射光を用いたエネルギー高分解能光電子分光による電子状態に関する情報を総合し,理論計算と比較して,その結果を機能物質の創製にフィードバックする。このようにして,従来の物性物理学,固体化学,材料工学を学際的に融合した「すきまの科学」という新領域を切り拓き,広島大学に「複合自由度機能物質研究拠点」を確立する。

(2)研究成果の概要

 六つの班の有機的連携を強固にし,実験と理論の共同や放射光科学研究センターを活用した共同研究を推進し,以下の様な成果をあげた。
○高容量水素貯蔵物質:Li-Mg-N-H系物質をミリング処理によりナノ構造化すると,150度において6重量パーセントに及ぶ水素を放出した。類似系の中でエンタルピー変化が最小であるこの物質は,自動車に実装可能な水素貯蔵材料の有力候補である。
○エキゾチック超伝導体:層状窒化物絶縁体β-HfNClのClを部分的に除去してTc=24Kの超伝導体へと転換させた。高いギャップ比は強結合領域にあることを意味し,臨界磁場の強い異方性と異常に小さい同位元素効果は非BCS超伝導を強く示唆する。β-HfNCl単結晶の角度分解光電子分光実験とバンド計算との比較から,2次元的電子状態を決めた。
○熱電変換希土類化合物:巨大な電力因子を示す近藤半導体CeRhAsとYbB12において,トンネル分光,ラマン分光,放射光光電子分光によって,温度低下に伴うギャップの発達を直接観測した。関連物質群のギャップ構造と電子状態の関係はバンド計算によって支持された。
○物質設計:高精度な第一原理計算手法及び計算コードの開発を進め,強磁性強誘電性物質などの物性予測や物質設計を可能とした。

 国際シンポジウムを3回開催し,研究成果を世界に発信した。放射光科学研究センターの全国共同利用をはじめ世界の研究者との共同研究を,広大オリジナルの物質創製,物質設計,及び複合極端条件下物性測定手法を活用して進めた。本COEを発展させた先進機能物質研究センターを平成18年4月に設立し,「すきまの科学」を展開している。

5.審査部会における所見

A(期待どおり研究が進展した)
 カゴ状部物質中における熱伝導の抑制に関する研究など、すきまの科学という独自の観点を生かした研究成果を得ており、高容量水素貯蔵物質・エキゾチック超伝導体・熱電冷却希土類化合物のそれぞれの研究テーマについて科学的に優れた基礎研究の成果が多数得られている。また、本研究は研究期間終了後には、先進機能物質研究センターを設立しており、COEとしての当初の目標は達成していると考えられる。すきまの科学としての学理の確立、クリーン省エネルギー実現に向けての実用化については、今後の進展に期待する。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --