研究課題名:南極周回飛翔・超伝導スペクトロメータによる宇宙起源反粒子の精密探査

1.研究課題名:

南極周回飛翔・超伝導スペクトロメータによる宇宙起源反粒子の精密探査

2.研究期間:

平成13年度〜平成17年度

3.研究代表者:

山本 明(高エネルギー加速器研究機構低温工学センター・教授)

4.研究代表者からの報告

(1)研究課題の目的及び意義

 本研究は、南極周回超伝導スペクトロメータによる宇宙線観測を通して、『宇宙起源反粒子、反物質の精密探査』を目的とする。地球磁極領域に降り注ぐ低エネルギー宇宙線に注目し、反陽子スペクトルを精密に測定して、衝突(二次)起源反陽子流束の理解を深めるとともに、『原始ブラックホール(PBH)の蒸発』、『超対称性粒子・ニュートラリーノの対消滅』等、初期宇宙における素粒子現象の痕跡となる『宇宙(一次)起源反粒子の精密探査』を推進する。これまでに観測例のない反ヘリウムの直接探査を通して、宇宙における物質・反物質の存在の非対称性を検証する。同時に陽子、ヘリウム流束を精密に観測し、これまでの観測と合わせて、太陽活動変調とその電荷依存性について系統的な観測データを提供し、宇宙線の伝播、相互作用に関する基礎データを提供する。 BESS-Polar実験は、これらの反粒子、反物質をプローブとした宇宙観測をとおして、初期宇宙の素粒子像を、加速器を用いた実験とは相補的な手段で検証する。

(2)研究成果の概要

 本研究では、BESS実験(Canada, 1993年〜2002年)における宇宙線観測の経験をもとに、低エネルギー領域での観測感度を高め、南極周回長時間飛翔を可能とする超伝導スペクトロメータを新たに開発した。2004年12月13日、南極(米国、マクマード基地)において、気球によるスペクトロメータの打ち上げに成功、高度37キロメートルでの9日間におよぶ南極周回飛翔に成功し、9億イベントの宇宙線観測データを収集した。観測データから、大気頂上での運動エネルギー0.1〜1.3GeV(ギガエロクトロンボルト)の範囲に於いて、432イベントの反陽子を同定し、これまでのBESS実験比し、約4倍の統計量でエネルギースペクトルを決定した。実験結果は、太陽活動中間期の観測として、衝突(二次)起源モデルとよく整合する結果を得た。原始ブラックホール等の一次起源反陽子の兆候は観測されなかったが、一次起源反陽子は、存在した場合にも、この時期には太陽活動変調を大きく受け、衝突起源反陽子スペクトルのレベル以下に留まる為、予想された観測結果となった。『反陽子/陽子』比をプローブとした観測からは、太陽変調の電荷依存性について、太陽磁場極性との相関について貴重な観測結果を得た。反ヘリウム探索は、これまでのヘリウム観測の総統計量を2倍に高め、反ヘリウム/ヘリウム比の上限値を3x10E-7にまで押し下げる結果を得た。これによってBESS/BESS-Polar実験を通して、2桁、探索感度の向上を達成した。

5.審査部会における所見

A(期待どおり研究が進展した)
 本研究では,低エネルギー領域の宇宙線の観測感度を高め,南極周回長時間飛翔観測を可能とするために新たに開発した超伝導スペクトロメータを用いて,南極地域において9日間の南極周回飛翔観測に成功し,従来より精度の良い観測データが得られことは,評価される。初期宇宙の素粒子現象を解明するための宇宙起源反粒子の検出までは本研究期間内に達成できなかったが,その観測に向けた準備が進められており,本研究の成果のさらなる進展が期待される。総じて,期待通りの研究が進展したと判断した。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --