研究課題名:無転位3-5-N混晶-シリコン融合システムのデバイスプロセス

1.研究課題名:

無転位3-5-N混晶-シリコン融合システムのデバイスプロセス

2.研究期間:

平成15年度~平成17年度

3.研究代表者:

米津 宏雄(豊橋技術科学大学工学部・教授)

4.研究代表者からの報告

(1)研究課題の目的及び意義

 シリコン(Si)の集積回路(LSI)では、時系列・直列動作システムの動作速度は配線遅延等によって制限され、微細化の効果がますます得られにくくなっていく。一方、21世紀に求められる電子システムは人に優しい高速・省エネシステムである。例えば、生体の感覚器官や脳では、超並列・多層システムによって現コンピュータをはるかにしのぐ情報処理機能が実現されている。これらを考えると、21世紀の集積回路は、電子回路に光等を融合したシステムに展開していくと考えられる。
 本研究では、理想的なモノリシック型の光-電子融合システムの作製方法を、光・電子物性の解明・制御のもとに探究した。LSIで用いられるプロセス・フローに準拠して、基本デバイス・回路を作製することができれば、将来LSIの中に無数の発光デバイスを自在に組み込んだ、ワンチップ光-電子融合システムに発展していくことが期待される。これにより、上記の情報処理機能が可能になるだけでなく、多くの新たな機能を生み出すことができるようになる。これまで、電子デバイス・回路と光デバイス・回路は相容れないものと捉えられていた概念が、本研究によって相容れることができるという概念に変わると考えられる。半導体材料から見れば、Siと化合物半導体は相容れないとして発展してきた概念が大きく変わることになる。その結果、これらの両者が別々に発展してきた学問・技術分野に、新たな融合分野が生まれることが期待される。

(2)研究成果の概要

 本研究では、本研究代表者等が2001年に世界に先駆けて実現した、Si層と窒素(N)原子を含む3-5族化合物半導体(3-5-N混晶)層の無転位成長技術を基盤技術とした。最上層のSi層に作られたMOSトランジスタによる集積回路と、その下の3-5-N混晶層に作られた発光デバイスとを統合した、ワンチップ光-電子融合システムを考案し、その基本デバイス・回路の実現を目指した。
 発光デバイスに用いる(In)GaPNの非発光要因である点欠陥について、エピタキシャル成長後と成長時での低減手法を見いだし、解明も進んだ。GaPN層のn形およびp形の電気伝導度制御が可能になり、電子の散乱機構も明らかになった。また、InGaPNのバンド構造と光物性の解明も進んだ。Siと(In)GaPNの成長室を分離した2成長室型分子線成長(MBE)装置を開発して、両者の相互汚染を防ぐことに成功した。また、Si集積回路と発光デバイスのプロセス技術の融合を図り、MOSトランジスタとInGaPN/GaPN LEDを集積回路のプロセス・フローに準拠して作製できることを実証した。両者を接続して、MOSトランジスタによりLEDの光出力をON/OFFできることも確認した。これにより、電子回路の集積回路の中に自在にLEDを組み込むことができるようになった。これは、世界的にこれまで成し得なかった成果であり、本研究においてワンチップ光-電子融合システムの基礎技術が築かれた。

5.審査部会における所見

A(期待どおり研究が進展した)
 無転位3-5-N混晶-シリコン融合システムの結晶成長とデバイスプロセスという先導的な課題に対して、結晶成長と物性の両面で着実な成果が認められる。具体的には、シリコンとの格子整合を前提として、分子線エピタキシー法によるGaPNとInGaPNの成長とその高品位化、3-5-N混晶のn型とp型の制御において優れた実績を挙げている。さらに、シリコン接合光デバイスの試作にも成功しており、実用化を視野に入れた今後の展開を見込むことができ、期待どおりに研究が進展したものと判断した。

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研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --