研究課題名:水の多様性の発現機構

1.研究課題名:

水の多様性の発現機構

2.研究期間:

平成14年度~平成17年度

3.研究代表者:

大峯 巌(名古屋大学大学院理学研究科・教授)

4.研究代表者からの報告

(1)研究課題の目的及び意義

 水はその特異な物質化学的性質により、地球の自然環境を作り出し、生命の活動の源となっている。水は温度、圧力、空間的拘束などの変化により、非常に多様な性質を示す。本研究は、この特異な多様な水の性質の基となる、水分子が織りなす3次元的水素結合ネットワークの構造変化の特性を、物理化学の新しい理論・実験方法論、概念を開発することにより分子レベルから解析した。即ち、このネットワークの構造変化に伴って起る水分子の間欠的集団的運動が、如何に(液体の)水の特異的性質、また氷化や融解などの相転移、さらに水の絡む化学反応の特性に反映されるか、さらに、それらが、環境(即ち、温度、圧力、表面やカーボンナノチューブなど限られた空間性)によって多様に変化するか、を明らかにした。
 この「水の多様性の発現機構」の研究は、水の物理化学的研究に新しい局面を開くと同時に、多くの研究分野、応用分野へと繋がっている。本研究で明らかにした「相転移の分子機構」、「気体分子やイオンなどの水和機構やハイドレードの形成」は雨の形成、氷結現象や雷の発生原理に関係しており、また「イオンや分子の水和の温度変化の機構」は、超臨界水の非常に高い反応性の源を明らかにし、有害物質の分解方法にも関係している。また水と生体高分子が織りなす「水素結合の上を伝わるプロトンの移動の機構」は生命活動の源である。本研究は、このように多様な自然現象の源となっている水の多様な物理化学的性質の発現機構を明らかにするものである。

(2)研究成果の概要

 水の中の3次元的水素結合ネットワークの特性、またその組み替え運動、それに伴う水分子集団運動と揺らぎの様相を明らかにし、それらが、水の絡む化学反応、相転移(例えば、水の氷化、氷の融解など)にいかなる影響を及ぼしているかを解明した。具体的には、
(1)水の水分子の集団運動、揺らぎの様相を実験的に観測する新しい分光法の開発を行った。特に、2次元ラマン分光法(5次の非線形応答)の信号スペクトルに現れる物理現象の帰属を理論的に明らかにし、実験グループと共に、液体や生体高分子などの複雑化学系の「位相空間ダイナミックスを探る新しい分光法」を確立した。
(2)長年の課題であった「水の氷化過程の分子機構」に対して、水の氷化における水分子の運動・揺らぎの役割、初期核の構造と成長・変化の様相などを明らかにした。さらに、低温状態(ガラス状態)の水素結合ネットワークの構造変化の様相を探り、またカーボンナノチューブなどの限られた空間内における水の構造化・結晶化や、大量の気体を氷の中に取り込んだガスハイドレートの生成の分子機構を明らかにした。
(3)水の自己解離の温度依存性の完全な再現に成功し、超臨界領域のイオン水和の特異な分子機構を明らかにした。これは、超臨界水の非常に高い反応性に関係していることを示した。この「水の自己解離の分子機構」も水に関する研究の長年の課題であった。
(4)生体高分子反応に於ける水の役割を調べ、水和が蛋白質の構造変化を如何に引き起し、またイオン輸送に関係しているかを明らかにした。

5.審査部会における所見

A(期待どおり研究が進展した)
 水が関与する多様な現象を分子レベルで統一的に理解することは、極めて重要な課題である。本研究では理論的手法によってこの課題に取り組み、1)間欠的集団運動や揺らぎの特徴を抽出するための多次元非線形分光法の提案、2)水素結合ネットワーク構造の新しい解析手法の開発と水の氷化過程やガスハイドレート形成過程のシナリオの提唱、3)長距離の相互作用を取り込んだシミュレーションによるイオンの水和機構の解明、などの顕著な成果を挙げた。いずれも学術的意義が高く、期待通りに研究が進展したと判断した。

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研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --