研究課題名:バイオマグネタイト形成の分子機構解明とその応用

1.研究課題名:

バイオマグネタイト形成の分子機構解明とその応用

2.研究期間:

平成13年度~平成17年度

3.研究代表者:

松永 是(東京農工大学大学院共生科学技術研究部・教授)

4.研究代表者からの報告

(1)研究課題の目的及び意義

 磁性細菌が体内で形成する磁気微粒子(バイオマグネタイト)は人工磁気微粒子に比べ多くの優位な特徴を有している。均一な形状・ナノサイズ、そして脂質二重膜に覆われているために分散性に富んでいる。また、磁石一個の大きさは、理論的に得られる最大単磁区サイズになっている。本研究では、このような生物的作用によって制御されたバイオマグネタイトの合成メカニズムを、網羅的な分子生物学的手法を用いて解明することを目的とした。さらに、これらの知見に基づいてバイオミメティックな手法によるバイオマグネタイトの生成、機能性タンパク質をディスプレイしたバイオマグネタイト生産に応用することを目的とした。大きく下記の6項目について検討を行った。
1.磁性細菌Magnetospirillum magneticum AMB-1の全ゲノム解析
2.DNAチップを用いた遺伝子発現解析によるバイオマグネタイト合成遺伝子群の同定とその調節機構の解析
3.タンパク質発現解析によるバイオマグネタイト合成遺伝子群の同定とその機能解析
4.バイオマグネタイト合成に利用される鉄の取り込みとバイオマグネタイト合成のメタボリックマップの作成
5.バイオマグネタイト合成遺伝子群の各種ホストへのクローニングとバイオマグネタイトの合成
6.機能性タンパク質をディスプレイしたバイオマグネタイトの生産・生成

(2)研究成果の概要

 AMB-1株の全ゲノム解析を行い、全4,967,148塩基対の塩基配列を決定した。4,559個のORFの予測とそれらの機能推定を行い、データベースを構築した。ゲノム配列をもとに作製したDNAマイクロアレイを用いて、バイオマグネタイト生成条件と非生成条件における各遺伝子の転写量を比較し、バイオマグネタイト合成に関連する遺伝子群を明らかにした。その結果、磁性細菌の大量鉄取り込み機構は特異的な遺伝子の発現制御によるものであることが示されAMB-1株における2価と3価の鉄イオン輸送経路の役割が明らかにされた。一方で、バイオマグネタイト包膜タンパク質やバイオマグネタイト表面に吸着したタンパク質を分離後、アミノ酸配列を決定し、約80個のタンパク質を同定した。個々のタンパク質の機能解析から、包膜形成において重要な役割を果たす複数のタンパク質が同定されるとともに、バイオマグネタイト包膜の由来が細胞内膜であることが明らかにされた。この包膜形成の分子機構は、真核生物の持つシステムと多くの共通点を有していることが明らかにされた。また、バイオマグネタイト表面に強固に吸着しているタンパク質の存在を明らかにし、その特徴的モチーフを有するペプチドを用いることで、in vitroで粒径の揃ったマグネタイトの合成に成功した。さらに、バイオマグネタイトの応用研究として、新規なアンカー分子やプロモーターの検索を行うことによって、安定かつ効率的なディスプレイ技術の確立を行った。これによってGタンパク質共役受容体等の外来タンパク質をディスプレイした機能性バイオマグネタイトの簡便な合成が可能となった。

5.審査部会における所見

A(期待どおり研究が進展した)
 分子生物学の研究手法も駆使してバイオマグネタイト形成に関する分子レベルの機構解明と応用研究の成果の両方を目指す困難な課題であったが、磁性細菌の全ゲノム解析、DNAマイクロアレイを用いたバイオマグネタイト合成遺伝子群の同定、タンパク質の機能解析などに成功した。特に磁性細菌の鉄取り込み機構を遺伝子レベルから解明した研究は先導的で、関連学問分野への貢献も大きいと思われる。粒径の揃った磁性鉄微粒子の生成は、材料科学への応用も期待される。総じて、本特別推進研究は期待どおりの成果が得られたと判断した。

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研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --