研究課題名:トロンによる多漢字利用システムの構築

1.研究課題名:

トロンによる多漢字利用システムの構築

2.研究期間:

平成14年度~平成17年度

3.研究代表者:

坂村 健(東京大学大学院情報学環・教授)

4.研究代表者からの報告

(1)研究課題の目的及び意義

 本研究の目的は、東洋文化研究を支援するデジタルプラットフォームを確立することである。
 近年、西洋文化の研究分野では、たとえば言語学上の統計分析など、新しい文化研究手法が確立し、目覚しい成果を挙げている。同様に、東洋文化研究の分野においても、たとえば中国・日本・韓国の文献などをクロスチェックするといった漢籍研究の場面を想定すれば、同様の情報処理技術が多大な支援となることは明らかである。それにもかかわらず、現在のデジタル技術では、東洋文化の主たる媒体である複雑で多様な文字体系を扱う技術基盤への取り組みが十分でないため、上記のような情報処理技術を使った東洋文化研究の手法を確立することが出来ない。こうした東洋の文字体系を扱うデジタル基盤技術の遅れは、東洋文化研究の質を西洋文化研究の質と比べて、相対的に低く至らしめるといった結果を招きかねない。
 そこで我々は、多様な文字体系の処理機能に優れたトロン仕様のコンピュータアーキテクチャ上に、東洋文化研究を支援するデジタルプラットフォームを構築する。また、この成果を東洋文化研究にフィードバックし、実践利用を通して東洋文化研究の新しい研究手法を確立する。

(2)研究成果の概要

 本研究の成果としては、まず、東洋文化研究デジタルプラットフォームのためのおよそ38万文字のフォントが挙げられる。またこれらの文字検索のためのツールを作成し、部首や画数、文字の部品による文字検索や、関連する文字をBTRONで検索・入力することが可能となった。多漢字コンテンツ処理のためのシステムとしては、Java TRON code Profileを制定し一般に公開した。そして、この仕様に従った実装がなされており、配付・実用化している。多漢字コンテンツを、非多漢字環境で利用するためのシステムとしては、TRONコードをテキスト形式にエンコードして発信するwebサーバや、多漢字テキストデータを、外字フォントと外字利用テキストに変換するフォントトレーサビリティシステムを開発した。
 これらのデジタルプラットフォームを利用し、甲骨研究の強力な道具となる甲骨資料データベースが作成された。このデータベースは、研究面・教育面での有効なツールとなっている。また、これらのデジタルプラットフォームやデータベースは、東京大学東洋文化研究所で開催された漢籍講習会で利用された。これらにより、本研究の目的を達成することが出来たといえる。

5.審査部会における所見

A+(期待以上の研究の進展があった)
 トロンを応用して進められた漢籍研究と甲骨文研究のためのデジタル・プラットフォーム構築について大きな成果があがり、当初の目的が十分に達成されたものと判断できる。また、トロン上で動作するシステムを他のOSでも利用可能にするソフトの開発という面でも大きく進展しており、汎用性という点でも展望が見えてきている。今後は、出来上がったシステムの活用、普及により一層努めてほしい。また、甲骨文の検索システムの開発については、今後の展開が望まれる。全体として工学的な側面では、優れた成果が出ているが、他方、人文学的研究では、若干成果が乏しいのが惜しまれる。今後、できあがったプラット・フォームを積極的に活用した人文学的な研究成果が蓄積されることを期待したい。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --