ダブルハイパー核の研究
平成15年度~平成19年度
今井 憲一(京都大学大学院理学研究科・教授)
この研究の目的はダブルハイパー核(ここではストレンジクォーク(s)を2個含む原子核の総称)をできるだけ数多く発見して、そのミニチャートともいうべきものを作りその存在様式を調べることである。原子核物理はこれまで新しい原子核の発見によって発展してきた。残念ながらわが国で発見された原子核はすくない。ダブルハイパー核はその生成と確認が困難なため、ほとんど研究されておらず、これまでの申請者の研究によって確認されている数種がすべてといってよい。この研究ですべての探索可能なダブルハイパー核をわれわれの手で発見したい。この研究では、いままで開発してきた粒子検出器やデータ解析の技術を総合してダブルハイパー核の研究を飛躍的に発展させ、ダブルハイパー核の世界を明らかにしてストレンジネスを含む世界での原子核物理を確立することを目的とする。この研究によって中性子星内部の構造が明らかになり、さらにはクォーク星の存在可能性を探ることにもなる。また原子核をつくる核力の起源を明らかにすることができると考えられる。ダブルハイパー核の研究をすすめることで、クォークからどのようにハドロンそして原子核につながる物質がつくられるか、あるいは作りうるかという、重要かつ未解決の問題を明らかにすることが目標である。
ダブルハイパー核の発見のために、高エネルギー研(KEK)や米国ブルックヘブン研究所(BNL)でK中間子を使った実験的研究をすすめてきた。ダブルハイパー核の確認はその崩壊モードの検出によるしかなく、いまのところハイブリッド法による原子核乾板以外では観測は困難である。KEKの実験で得られた原子核乾板のデータ解析によるダブルハイパー核の探索はほぼ終了し、6例のダブルハイパー核候補事象と2例のtwin hyper核事象を発見し、ダブルハイパー核の存在とラムファとよばれる核の質量をはじめて決定した。さらにはダブルハイパー核の新しい崩壊モードをはじめて発見した。しかしダブルハイパー核がストレンジネスをもつ原子核物理として確立するためにはまだデータが不十分である。そこで10倍の規模の次世代の実験を行うため、カギとなる新しいハイブリッド法の開発製作と原子核乾板やその自動解析装置の高速化に取り組んできた。そして新しい実験システムのテストをKEKで行なった。原子核乾板の自動解析装置では3倍以上の高速化に成功し、これまで4台製作した。新しい提案により、直接ダブルハイパー核を顕微鏡下で計算機を使って探索する試みも開始した。その他、KEK-E522とE559実験ではダブルハイパー核研究との関連で、Hダイバリオン共鳴とペンタクォークの探索も行い、ストレンジネスをもつエキゾチック粒子の存在に重要な制限を与えた。
A-(努力の余地がある)
高エネルギー加速器研究機構(KEK)における実験のダブルハイパー核の探索はほぼ終了し、いくつかの興味深い成果が得られている。次世代ハイブリッドエマルジョン実験の準備も順調に進んでいるが、米国ブルックヘブン国立研究所(BNL)での実験が米国国内の事情により不可能となったため、2年後のJPARCにおける実験を目指すことに方針転換した。また、これまでの実験でビームに晒したエマルジョン乾板を高速自動解析することによって、ダブルハイパー核に特徴的な連続崩壊事象を探索する「General
Scan」装置の開発研究を新たに加えた。外部研究者との連携なども視野に入れた努力により、計画変更による困難を乗り越えることを望む。
研究振興局学術研究助成課
-- 登録:平成23年03月 --