研究領域名:ヒト疾患における遺伝要因のゲノム的解析と分子病態の解明

1.研究領域名:

ヒト疾患における遺伝要因のゲノム的解析と分子病態の解明

2.研究期間:

平成12年度~平成16年度

3.領域代表者:

菅野 純夫(東京大学大学院新領域創成科学研究科・教授)

4.領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 本特定領域研究は、急速に蓄積されつつあるヒト及びモデル生物のゲノム配列情報と遺伝子情報及びクローンなどの材料を活用した新しいアプローチによる医科学研究を展開してこうとする研究者集団を形成し、ヒトゲノムプロジェクトの進行から期待される医科学の新たなる飛躍を先導していこうというものである。特に、高血圧、糖尿病、喘息・リウマチといった多因子疾患を対象に選び、疾患関連遺伝子を明らかにし、多因子疾患の分子レベルでの病態解明を目指す。
 そのためには、従来からヒトゲノム研究の中核を担いゲノム研究・ゲノム医科学研究に充分な実績を持つ研究者を計画研究として組織する一方、公募研究として、新しくゲノム医科学研究を展開しようとする意欲のある研究者特に若手の研究者を組織することを目指し、以下の2つの研究課題を設定した。

A.ゲノム配列情報やSNP情報など、ヒトゲノムの構造と多様性情報を利用し、高血圧、糖尿病、喘息等の多因子疾患について、疾患関連遺伝子のマッピングとクローニングを目指す研究。

B.現在蓄積されつつある多量の遺伝子及びクローン等のゲノム資源を活用した、新しい分子病態解析法の開発と多因子疾患へのその応用研究。

(2)研究成果の概要

 上記の2つの研究課題に対して、各年度、約30の計画研究、約70の公募研究、あわせて、約100の具体的な課題が設定され、以下のような研究成果が得られた。

A.糖尿病、高血圧の患者サンプル各1500例を、診断基準を明確化した上で収集、理化学研究所・国立がんセンター等と共同研究を行い、全ゲノムSNPタイピングと全ゲノムMSタイピングを行い。高血圧では4つの、糖尿病では3つの疾患感受性候補遺伝子が見出された。喘息、関節リウマチ、SLE、橋本病、骨粗鬆症、精神分裂病等の多因子疾患について、sib-pair(シィブペアー)を用いたマイクロサテライトによる全ゲノム的な連鎖解析にて、感受性遺伝子存在染色体領域を同定した。さらに、同定した領域から10以上の有意な疾患感受性候補遺伝子を同定した。また、各疾患について候補遺伝子を用いた疾患との相関解析により、5個以上の疾患感受性候補遺伝子を同定した。

B.遺伝子プロモーター領域の同定とSNPのマッピングを約14000遺伝子について行った。DNAチップ、SAGE(セイジ)法、マイクロアレイ及びiAFLP法を用いて、正常組織、虚血臓器、炎症性疾患、各種血球細胞、神経腫瘍及び白血病細胞における遺伝子発現プロファイルの取得を行なった。得られたデータのデータベース化及び知識データベースとの連関のための新手法を開発した。疾患データベースの充実をさらにすすめた。酸化障害タンパク質を質量分析機で検出するためのTOP法の開発に加え、ユビキチン化たんぱく質を同定する方法を開発し、量子ドットを用いた多色蛍光プローブを用いて、糖尿病モデル動物の肝臓におけるアクチンが酸化障害は受けているものの、ユビキチン化は受けていないことを見出した。さらに、5'UTR内の小ORFが実際にたんぱく質を作る事を見出した。

5.審査部会における所見

A(期待どおり研究が進展した)
 本領域は、高血圧、糖尿病、喘息をはじめとするヒトにおける普遍的多因子疾患のゲノム起源を明らかにすることを目標に掲げ、臨床系研究者を含む大学研究者を中心とするネットワークを新たに構築し、候補遺伝子を対象疾患に数個ずつ同定したことは大きな成果であると評価できる。この過程においてヒト多型タイピングセンターなど基盤が整備され、候補遺伝子発見後の病態解析についても、ゲノム解析における技術革新を行うチームが解析を行い、全体として支えあう体制が確立したことは評価に値する。研究成果のさらなる進展は、疾患の予防、診断、治療に大きく貢献することが期待できる。臨床系の研究者の参加、解析方法の確立、基盤整備の点から本領域はゲノム医学の成熟に大きく寄与したものと評価できる。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --