研究領域名:がんの戦略的先端研究

1.研究領域名:

がんの戦略的先端研究

2.研究期間:

平成11年度~平成16年度

3.領域代表者:

谷口 維紹(東京大学大学院医学系研究科・教授)

4.領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 がん研究は、諸外国においても最も重要な課題の一つとして位置づけられており、同時に現在の生命科学の大きな一翼をになっている。本領域においては「がんの本体解明とその克服」を基本テーマとし、がん化とその制御に関する基本メカニズムの解明に向け先端的基礎研究を推進し、がんの診断・治療・予防法の開発に向けての新しいブレークスルーを見いだすことを目的として推進した。がん化の過程は極めて複雑性・多様性に富み、本体解明には未だにほど遠い。本領域は国内がん研究の総合的推進に寄与するために、他の「がん特定領域」と協調しながら、同時に他のがん研究体制との連携を図り、がんの本態解明とがん克服を目指した先端的基礎研究を推進した。実際には6つの研究項目(柱)に分けながらも、お互いに緊密な連携をとりながら総合的に研究を推進し、細胞の増殖、がん化、分化、死といった多様な応答を調節するシグナル系とそのエフェクター分子群の機能について集中的に解析した。更に、細胞の接着、極性、転移・浸潤といった、がん細胞のダイナミズムの解明を目指した研究、免疫系と発がんにかかわる生体防御機構の研究を推進しながら、新しい技術の導入によってがん化に関与する分子の細胞内動態・時空間制御の仕組みについても解析を行った。いずれの研究も国際的に競争の激しい分野であるが、がんを巡る「生命体の複雑性」の理解に向けて新しいパラダイムを求めながら、がんの克服に向けた新しい原理・技術の開拓を目指して研究を推進した。

(2)研究成果の概要

 がんの発生とがん細胞の転移、それらの防御機構の解析において国際的にも極めて高い成果を挙げることが出来た。細胞増殖制御因子、ステロイドホルモン受容体、TGF-β受容体シグナル制御分子などの研究が著しく進展し、がん化のシグナル機構を可視化するなどの新展開も見られた。またがん化の誘導・促進及びその防御に関するモデル動物の解析が大きく進展した。そしてクローデイン、WAVE,分子をはじめ、がんの転移・浸潤のメカニズムに関する研究も大きな成果が挙げられた。がん抑制因子p53遺伝子発現制御に関する研究、及びp53とRbの機能解析が新しい進展をみせており、新しいがん治療法に繋がる可能性もあることから国際的に注目を浴びている。また、がんと免疫を繋ぐシグナルネットワークの解析やアポトーシスと免疫との関係についても画期的な展開があった。特に最終年度には、HB-EGFが卵巣癌治療のターゲットとして有望であることを明らかにし、既にがんのトランスレーショナルリサーチプロジェクトへと発展している。発表論文も数千に及び、Natureをはじめ国際的に注目を浴びるものが多く発表された。また、その成果に基づいた民間との連携も進められており、特許も多数申請されているので、今後本領域の成果が更にがんの診断・予防・治療へと大きく展開することが期待される。

5.審査部会における所見

A(期待どおり研究が進展した)
 日本を代表する成果をあげ続け、多数の国際的一流誌への研究成果発表がなされた。がんの生物学、さらに生物学一般へ与えるインパクトは大きい。基礎的研究が多いが、その中には直ちにがんの診断・治療に結び付けられる研究成果も多々認められた。今後もがん領域において厚生労働省のがん研究との交流はさらに活発に行う必要がある。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --