研究領域名:ヒトがんの環境・宿主要因に関する疫学的研究

1.研究領域名:

ヒトがんの環境・宿主要因に関する疫学的研究

2.研究期間:

平成11年度~平成16年度

3.領域代表者:

田島 和雄(愛知県がんセンター研究所疫学予防部・部長)

4.領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 疫学研究は人間集団の生活事象としての疾病流行状況を観察・分析することにより、がんの流行に影響する危険・防御要因を解明し、予防対策に資することを目的とする。本領域の総括班には大規模コーホート運営委員会、分子疫学生体材料利用委員会、ATL研究推進委員会などを設置して多施設共同による生活習慣情報や生体試料の収集、解析などを支援する。領域全体を機能的に4研究分野(民族疫学、分析疫学、分子疫学、臨床疫学)で構成し、生活習慣の特性群別にがんの要因を前向きに探索するコーホート研究、がん・非がん者群間で過去の生活様式の差を比較分析する症例・対照研究など分析疫学研究などの手法を用い、世界のがんの流行変動と背景要因を巨視的に観察する民族疫学研究、個体特性から環境要因の暴露影響を評価する分子疫学研究、臨床・病理学的知見に基づくがんの進展・予後因子を探る臨床疫学研究など、全国から疫学、および関連学問分野の研究者が集結し、人間集団を対象とした包括的な疫学・予防研究を展開する。

(2)研究成果の概要

 本領域総括班は昭和63年に開始された大規模コーホート研究の支援に総力を挙げ、日本人の主要部位のがんの要因をまとめた研究成果を学術雑誌に報告し、同時にホームページでも一般に公表した。一方では、多施設共同による分子疫学コーホート設立を推進するため、人間集団の調査資・試料を用いることの社会倫理問題に対応できる標準的な研究実施マニュアルを完成した。民族疫学分野は国際協力を基盤とした研究を展開し、アジア諸国の住民やブラジル日系移民などを対象とした比較疫学研究により、各地域に特化した食生活習慣とがんの関連性を明らかにした。分析疫学分野は、日本で増加する大腸、乳房、前立腺などのがんに焦点を絞り、生活環境要因を解明すると同時に、予防的介入研究による成果を得た。分子疫学分野は、主要臓器のがん発症に関連する環境要因と遺伝的素因の交互作用の解明に努め、各種生活習慣要因の暴露量に依存する発がんリスクの易感受性遺伝子型に関する知見を集約できた。臨床疫学分野は消化器を中心にがんの進展と予後を決定する諸因子を検索し、がんの進展予防の指標となる多くの知見を得た。本領域の研究成果を包括的情報として「がん予防の最前線」二巻にまとめ、国民のがん予防に役立てる啓発書として公表した。

5.審査部会における所見

A(期待どおり研究が進展した)
 発がんの危険・防御因子の解明とがん予防対策に向けて、がん疫学の大規模コーホート研究と分子疫学研究が推進された。これまでの長期にわたる疫学研究が着実に進展しており、領域の設定目標はある程度達成されている。また、一般公開シンポジウム、がん予防啓発のためのホームページの開設・運営などを介して、研究成果の公表、普及も充分に行われた。大規模コーホート研究は、長期のフォローアップが必要なので、今後もがん領域において研究を継続して、信頼性の高い優れた成果が得られることを期待したい。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --