研究領域名:植物の青色光受容体PHOTの光受容とその作用機作

1.研究領域名:

植物の青色光受容体PHOTの光受容とその作用機作

2.研究期間:

平成13年度~平成16年度

3.領域代表者:

和田 正三(自然科学研究機構基礎生物学研究所・特任教授)

4.領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 フォトトロピンは種子植物において、光合成の効率化に関与する光屈性、葉緑体光定位運動、気孔開口、葉の伸展などの生理現象を制御する青色光受容タンパク質である。青色光はN末端側の2つのLOVドメインに結合するフラビン(FMN)によって吸収され、C末端側にあるキナーゼドメインのタンパク質リン酸化活性が制御される。本研究では各生理現象の解析にもっとも適した植物材料を用いてフォトトロピンの作用機作を解析し、得られた知見をシロイヌナズナに集約することによって、初期光反応から生理作用発現までの信号伝達の全体像を一貫して理解することを目的とした。
 フォトトロピンの作用機作を解明し、植物の環境応答メカニズムの一端を明らかにすることは、未だに不明な点が多い植物科学分野の発展への大きな貢献になる。一方、応用面においては、フォトトロピンの作用機作が光合成効率化と密接に関係することから、植物の生産性増強の対策に役立つ知識と助言を与えることになる。

(2)研究成果の概要

 本研究目的「フォトトロピンの作用機構」に関する主な成果: 本研究期間中に、シダ、コケの葉緑体運動、ソラマメの気孔開口、イネの光屈性、における光受容体がフォトトロピンまたはその関連光受容体であること、単細胞緑藻クラミドモナスにもフォトトロピンが存在し、種子植物内で機能しうること、緑藻ヒザオリにはシダ同様のキメラ光受容体がありシダ内で機能すること、などを証明した。光吸収直後の初期反応としては、タンパク質内の変化を物理化学的に詳細に解析するとともに、フォトトロピンの自己リン酸化に伴う14-3-3タンパク質の結合、ゴルジ体を介した機能発現の可能性を明らかにした。個々の生理現象の発現機構に関しては、葉緑体運動については、葉緑体直下で消長する微細なアクチン繊維の発見、その重合に関与するCHUP1(チャップワン)遺伝子の同定、気孔開口に関しては、フォトトロピン結合タンパク質の同定、タイプ1フォスファターセの関与、光屈性に関しては、シロイヌナズナの信号伝達系との類似性が示された。
 応用面に資する発見:弱光条件下ではフォトトロピンが光の捕集効率を高め光合成を増大させ、植物の成長を促進すること、また葉緑体逃避運動が植物の生存に必須であることを証明した。

5.審査部会における所見

A+(期待以上の研究の進展があった)
 本研究領域は、小さい研究班だが研究は着実に進み、期待以上の成果が得られた。光合成の効率化において重要な役割を果たしている青色光受容体、フォトトロピンの作用機序の解明について対象を絞り、グループ間の連携や共同研究を進めながら、成果の統合に成功している。そして、採択当時からオリジナリティの高かった研究内容をさらに高め、研究期間中も世界のトップレベルを維持し続けた。新しい知見をレベルの高い雑誌に相当数報告をし、また招待講演も多く、成果の公開および普及に努めたことも評価できる。今後、当該分野の研究者の育成および成果の他分野への貢献を期待する。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --