研究領域名:金属が関与するセンサーとスイッチのケミカルバイオロジー

1.研究領域名:

金属が関与するセンサーとスイッチのケミカルバイオロジー

2.研究期間:

平成12年度~平成16年度

3.領域代表者:

西野 武士(日本医科大学医学部・教授)

4.領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 金属が生体内でセンサー機能に関与し、情報伝達のスイッチとして機能している例が近年増加しつつあり、注目を集めている。金属と蛋白質の相互作用が、結果的に蛋白質の構造変化とそれに伴う機能変化(スイッチ)をもたらす現象である。蛋白質は遺伝子産物であるポリペプチドを構成するアミノ酸のみでは多様な反応性が発揮できず金属やビタミンなどの補欠分子族を用いて反応の多様性を発揮している。本領域ではこれら金属が関与するセンサー、スイッチ機能を有する蛋白質を中心に金属蛋白質の化学レベルの構造と機能の研究を行なう。本特定研究の主要な目的は、主に情報伝達系や遺伝子発現系に働く「金属蛋白質」を一つの切り口として、その分野に関連したそれぞれ異なる学問的背景と様々な実験手法をもつ研究者が協力して、「センサーやスイッチの詳しい分子機構の解明」、「新しいセンサーの探索」などに取り組み、この新しい分野の研究を格段に進展させ、同時に厚みのある学際的な研究者を養成することにある。金属蛋白質は、情報伝達における発生器やレセプター等であるが、情報発生や感知する部分に金属が関与するため、活性中心が厳密に特定できること、また利用しうる物理化学的な研究手段が他の一般の蛋白質に比べてより多様なため、様々な重要な情報が得やすく、そのため機構についての理解が進め易い利点がある。

(2)研究成果の概要

 本特定研究では金属が関与する蛋白質においてリガンド結合などによりどのような機作でコンフォメーション変化が伝達され効果(機能変化や発現)が共通のテーマの一つである。本研究では生理的に重要な幾つかの蛋白質の立体構造解明を基に、金属による調節やリガンド結合による構造変化の機作が解明された。GTPcyclo-hydrolase1(ジーティーピーシクロヒドロラーゼワン)における亜鉛の役割、金属蛋白質によるS-S結合形成とキサンチン脱水素酵素から酸化酵素への変換、根粒菌酸素センサー蛋白質FixL/FixJ(フィックスエルフィックスジェイ)システムなどがその例である。またヘムオキシゲナーゼ、キサンチン脱水素酵素など金属による反応の反応中間体の構造決定もなされ反応機構解明など分子化学的な進展がみられた。何れもそれぞれの研究史的に画期的な成果である。またCooA(シオーオーエー)やHemAT(ヘムエーティー)などセンサー蛋白質においてリガンド結合とその仕方の分光学的解明や金属センサーの細胞生物学的検討もなされた。環境中の各種金属への応答に係る遺伝子群の転写包括制御の全体像の解明を目指して、金属応答を含め、環境変化に対応するゲノム転写パターンの変動は、転写装置の機能特異性の変化による転写対象遺伝子群の変化であることを明らかにされた。それらの膨大な解析結果を基に大腸菌の環境の金属変化への応答の遺伝子制御の全体像モデルも提案された。関連するいくつかの学会でシンポジウムを頻繁に開催すると共に公開シンポジウムも4回開催し、海外招待講演者含め多数の参加者を集め、専門家による討論とともに成果公開が行われた。

5.審査部会における所見

A(期待どおり研究が進展した)
 化学と生物分野を結びつけた新しい切り口の研究領域であり、設定目標を順調に達成した。“金属蛋白”という新しい融合的領域の足場を確立したと考えられる。異なる背景をもつ研究者が集う領域であるが、連携は良い。個々の研究はレベルが高く、金属の生理的役割の解明、反応中間体の構造解明などは特に高く評価できる。新しい視点で生物活性をみるヒントをもたらしている点で、今後関連分野へ貢献する可能性がある。成果は効果的に取りまとめられており、研究成果の普及にも努めている。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --