研究領域名:骨格系の制御プログラムと疾患

1.研究領域名:

骨格系の制御プログラムと疾患

2.研究期間:

平成12年度~平成16年度

3.領域代表者:

松本 俊夫(徳島大学医学部・教授)

4.領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 骨格系の形態や機能が維持されることは、生体が生命活動を維持する上で必須の要件である。骨格系の統合性は骨吸収を担う破骨細胞および骨新生・骨形成を担う軟骨細胞・骨芽細胞により維持されているが,近年,これらの細胞の機能・分化の調節因子が主に遺伝子導入マウスにおけるinvivoの解析により次々と同定され,骨格系の制御プログラムに関する理解は飛躍的に進歩した。その反面,これらの発見は骨格系の制御プログラムの意外なほどの複雑性・多面性を露呈しつつあり,個々の因子の調節系や機能,あるいは骨格系の細胞ネットワークや情報伝達カスケードにおける位置づけは不明確なままであった。
 そこでこの特定領域研究は、軟骨細胞、骨芽細胞、破骨細胞系におけるマスター転写因子やその調節に関与するサイトカインおよび細胞内シグナル分子の機能とその制御機構・相互作用を明らかにし、さらに細胞レベルでの相互作用をも明らかにすることにより骨格系の制御プログラムとその異常に基づく疾患の発症機序を解明し、治療に結びつけることを目的として行われた。

(2)研究成果の概要

 平成12年~平成16年の5年間にわたる本領域研究においては、骨芽細胞、軟骨細胞、破骨細胞の各細胞系列の分化・機能制御を担うkeyfactorの作用機序や発現調節機構などの解析を軸に、AP-1や核内受容体ファミリーなどの転写因子群も含めた分子機能の解明を進めた。同時にこれらをもとに分子間クロストークによる分化・機能調節機構、細胞間相互作用や相互分化調節などに基づく骨細胞ネットワークの恒常性維持機構の解明に向けて研究を推進した結果、主に以下の成果が得られた。

1)骨芽細胞・軟骨細胞系
-Runx2/Cbfa1(ランクスツー/シービーエフエーワン)の作用機構と活性調節機序および軟骨細胞系における新たな役割の解明
-Smad(エスマッド)シグナルの新たな調節機構の同定
-VDR,ARなどの核内受容体の作用機序と骨局所における役割の解明

2)破骨細胞系
-RANKシグナルの調節機序の解明
-破骨細胞分化におけるc-Jun(シージュン)の役割の解明
-Src活性の新たな調節機構

3)骨新生・再生
-骨新生・再生過程での血管新生におけるRunx2/Cbfa1(ランクスツー/シービーエフエーワン)やVEGF/Flt-1(ブイイージーエフ/フリットワン)シグナルの役割の解明
-骨再生治療へのBMPの応用に必要な担体となる新規ポリマーの開発

4)退行期骨粗鬆症の病態
-骨芽細胞・脂肪細胞への分化振り分けの制御因子の同定とその作用機序の解明
-骨代謝におけるIRSファミリーの役割の解明
 本特定領域研究によってもたらされた知見は、“骨の新分子同定”の混沌とした時代から、骨格系の制御プログラムとその異常に基づく疾患病態に対する我々の理解を飛躍的に高め、骨代謝領域に新たな展望を開いた。さらに核内受容体、Smad(エスマッド)、Runx(ランクス)、AP-1などの普遍的な転写因子ファミリーの新たな機能やクロストークの解析は、他の研究領域にも多大なインパクトをもたらしたと言える。

5.審査部会における所見

A(期待どおり研究が進展した)
 社会的にも大変関心の高い領域に設定された研究であり、開始時点で既に重要性が明らかになっていた分子ネットワークや転写因子などを中心に着実な成果が得られ、概ね目標は達成された。また日本がリードしている分野であり、関連領域にもそれなりの影響を与えたと考えられる。今後は、若手育成に力を注ぐとともに、再生治療をはじめとする臨床研究への貢献を期待したい。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --