研究領域名:分子時計が刻む脊椎動物の分節パターン

1.研究領域名:

分子時計が刻む脊椎動物の分節パターン

2.研究期間:

平成12年度~平成16年度

3.領域代表者:

高橋 淑子(奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科・教授)

4.領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 脊椎動物をもっとも特徴づけるものとして、からだの分節性がある。規則的かつ明瞭な繰り返し構造をとる分節構造は、我々の体の脊椎骨、肋骨、脊髄神経などに代表される。初期発生過程において、分節パターンは「体節」組織の中で確立される。そして体節分節は、中枢神経系の分節パターンをも規定する。つまり体節の分節過程が正常に進行しないと、筋骨格系が形成されないばかりか、高次神経系の機能までも重篤な影響を受ける。発生過程で分節化が進行する際、初めは一続きであった体節前駆体が、その前方から左右一対ずつ規則正しくくびれ切れる。本領域では、発生過程での中核をなす分節現象に特化し、それを支える細胞・分子機構を解明することを目的とした。特に注目した点は、未分節中胚葉内で確立される分節周期性の確立機構、分節境界位置の決定機構、そしてこの境界ラインに沿って繰り広げられる細胞のダイナミックな挙動のしくみである。分節周期性の解析には、コンピューターシミュレーションを用いた数理モデルと実験発生生物学との融合が有効と考えた。

(2)研究成果の概要

 体節分節に至る過程を、連続する4つの発生段階(1.体節前駆細胞の出現、2.分節時計の確立、3.分節位置の決定、4.形態分節と細胞挙動)に分け、各研究代表者によって得られる成果の位置づけとお互いの研究間の相互理解を図った。主な成果としては、ゼブラフィッシュなどの小型魚類を用いた大規模スクリーニングによって、体節中胚葉の幹細胞の動態や分節に関するさまざまなミュータントが得られ、新規の遺伝子やその役割が解明された。特に分節周期に関わる研究はコンピューターシミュレーションとの融合が極めて有効であった。またマウス遺伝学により、境界位置の決定に関わる転写因子MesP2(メスプツー)とNotchシグナルとの相互作用が明らかになった。加えて主にニワトリ胚の顕微操作により、分節境界形成因子「セグメンター」が発見され、境界形成における細胞のダイナミックな挙動とそれを制御する因子が見出された。特筆すべきは、本特定領域の分節研究から得られた知見が、脳領域の区域化や、動物の体表縞模様の形成機構など、発生における普遍現象の理解に大きく貢献したことである。本研究は、3年目の中間評価において、「A」という極めて高い評価を戴いている。

5.審査部会における所見

A(期待どおり研究が進展した)
 基本的なボディプランの1つである分節形成の解明という明確な設定目標に対して、優れた組織作りを活かし、想定した戦略に沿って、着実な展開と期待以上の独創的な優れた成果が上がり、当初の目的は充分に達成されている。分節に関する事象を4段階の現象に分け、発生におけるパターン形成のメカニズムをうまく分離して、個々がよく分担の任を果たし、分子から数学理論まで動員したシステムバイオロジーとしての成果が出ている。分子時計(分節時計)に対する新しい知見や、分節のカスケードを制御する分子とその機能解析が着実に進展し、興味深いシュミレーションモデルが提出されるなど、国際的にもインパクトのある業績が上げられた。また、領域代表者がリーダーシップを発揮し、領域を効果的にとりまとめ、研究推進に大きく貢献したことが伺われる。研究成果の積極的な公表にも努められており、公開・国際シンポジウムも国内外への発信という面で、大きな効果があったと思われる。分節という概念を定着させ、発生生物学分野における貢献は非常に大きく、さらに、異なる分野にも影響をもつ新しい生物学の展開をもたらした領域だったと思われる。今後、発生学全体、生命現象の理解への波及効果が期待される。

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研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --