研究領域名:DNA損傷による細胞死とDNA修復ネットワーク

1.研究領域名:

DNA損傷による細胞死とDNA修復ネットワーク

2.研究期間:

平成12年度~平成16年度

3.領域代表者:

田中 亀代次(大阪大学細胞生体工学センター・教授)

4.領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 遺伝情報を担うDNAは絶えず種々の損傷を受けている。これらのDNA損傷は細胞死や突然変異、ひいては癌化、老化の原因となる。ヒトを始めとする哺乳動物は、これらのDNA損傷や複製エラーを見つけて修復する多様なDNA修復ネットワーク機構を持ち、遺伝情報の維持をはかっている。とりわけ、ヌクレオチド除去修復(NER)、塩基除去修復(BER)、損傷乗り越え複製(TLS)機構等は、遺伝情報を維持することにより、個体の癌化、老化や、遺伝子異常による広範な病気の発生の予防に重要な役割を担っている。本特定領域研究は、NER、BER、TLS機構等における、修復間、修復と転写間、修復と複製間の蛋白質のクロストークに関わるDNA修復ネットワークやその欠損の分子病態を解明することを主な研究目的とした。平成12年度から平成16年度までの5年間にわたり研究を実施し、その研究成果として、1)NERやTLS機構の制御にユビキチン化が重要な役割を担うことを明らかにした。2)Poleta(ポリメラーゼイータ)やRAD18ヒトホモログなどTLSに関わる重要な遺伝子を発見、機能解析し、その後の新規TLSポリメラーゼの爆発的な単離・同定の端緒となり、TLS機構の解明に貢献した。3)insitu(インサイチュウ)での修復プロセスを解明する手段を開発し、それを用いて、塩基損傷、DNA一本鎖切断、二本鎖切断の修復機構解明を行った。4)遺伝疾患の分子的基礎の解明、モデルマウスの作成を行い、修復ネットワークの分子病態の解明に貢献した。以上のように、本特定領域研究は、ゲノム情報の維持機構とゲノム不安定性疾患の解明に重要な貢献をし、細胞核の構造と機能、転写、DNA複製の機構、発ガン、老化、遺伝病の分子機構、など他の多くの研究領域の発展にも波及効果をもたらした。

(2)研究成果の概要

 RNAポリメラーゼ2による転写をブロックし細胞死を誘発する転写鎖上のDNA損傷は、「転写と共役した修復」(TCR)により修復される。遺伝的早老症コケイン症候群(CS)はTCRを選択的に欠損し、その原因遺伝子産物であるCSA、CSBはTCRに必須であることが示唆される。本研究において、CSAはDDB1、Roc1(ロックワン)、Cullin4A(カリンフォーエー)、CSNと複合体を形成し、RNAポリメラーゼ2をユビキチン化するE3活性をもつことを見つけた。色素性乾皮症G群(XPG)患者にはCSを併発する場合がある。重篤度の異なる4種類のXPG変異マウスを作製し、そのC末端領域の欠損がCSの発症に関与することを明らかにした。一方、「ゲノム全体の修復」(GGR)に関与するDDB2は、CSA同様にDDB1、Roc1(ロックワン)、Cullin4A(カリンフォーエー)、CSNと複合体を形成しユビキチンリガーゼ活性をもつこと、そのターゲットがXPCやDDB2自身であること、これらのユビキチン化がNERの促進に働くことを明らかにした。他方、ヒト細胞核にレンズを通してレーザーを照射し、局所的に種々の活性酸素による損傷を作る技術を開発し、塩基損傷や単鎖切断の修復蛋白がリアルタイムで集積、解離するinsitu(インサイチュウ)修復プロセスを明らかにした。TLSに関与するヒトRAD18ユビキチンリガーゼや色素性乾皮症バリアント群の原因遺伝子産物であるDNAポリメラーゼエータ(Poleta)を発見し、それらのTLS機能を明らかにした。マウスRAD18やPoleta(ポリメラーゼイータ)欠損マウスを作成し、TLS機能の個体レベルでの役割の解析に重要な手段を提供できるようにした。このように、DNA修復やTLSに関与する重要な遺伝子や蛋白質の単離・同定、機能解析を進展させ、世界の当該領域研究をリードした。

5.審査部会における所見

A(期待どおり研究が進展した)
 DNA修復に関する研究が広く深く展開し、設定目標はほぼ達成された。転写の場、複製の場、ゲノム全体での修復機構に絞って、重点的に取り組んだ結果、高いレベルの独創的な成果が上がったと評価する。特にDNAポリメラーゼエータの発見、ユビキチン化による修復制御メカニズムの解明などは、本研究分野に大きなインパクトを与える成果である。個々の研究課題の成果をみれば若干のばらつきはあるものの、領域全体としては高く評価できる。成果の積極的な公表に努めて世界的にも高い評価を得ており、この分野への貢献は大きい。今後、ゲノム損傷に基づく疾患の治療法開発への発展による、がん、老化、免疫など医学分野への貢献が期待される。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --