研究領域名:His・Aspリン酸リレー型シグナル伝達ネットワークの普遍性と多様性

1.研究領域名:

His・Aspリン酸リレー型シグナル伝達ネットワークの普遍性と多様性

2.研究期間:

平成12年度~平成16年度

3.領域代表者:

水野 猛(名古屋大学大学院生命農学研究科・教授)

4.領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 生物が示す環境からのシグナルに応答した生体機能統御の基本は、細胞によるシグナル検知→シグナル伝達→応答的遺伝子発現制御に還元できる。これらの分子機構やシグナル伝達ネットワークを体系的に理解することは、分子生物学・細胞生物学分野の普遍的課題である。なかでも、タンパク質のリン酸化を介した細胞内情報伝達機構はその根幹をなしている。事実、タンパク質のリン酸化を介した情報伝達機構に関しては、人(哺乳類)からバクテリアに至るまで多様な生物を対象にした膨大な研究の蓄積がある。これと関連して、生物は進化の過程で「タンパク質(アミノ酸)のリン酸化を介したシグナル伝達に関して二種類の普遍モード」を確立したことは重要な事実である。一つは「Ser/Thr/Tyr(セリンスレオニンチロシン)リン酸化」であり、もう一つは「His/Asp(ヒスチジンアスパラギン酸)リン酸化」である。前者は「真核生物型」であり、後者は「バクテリア型」とも言える。前者に関しては膨大な研究の蓄積があることは改めて強調する必要もない。しかし本特定領域研究の発足当時(2000年)において、後者に関する体系的研究は大きく遅れていた。これらを背景に、本特定領域研究ではバクテリアから高等植物にいたる多様な生物における「バクテリア型His・Aspリン酸リレーシグナル伝達の普遍機構」に焦点を絞り、この分野における中心的若手研究者を結集して集中的研究を遂行することを目的とした。「少数の研究代表者6名」を有機的に組織化して、それぞれ当該特定領域に焦点をしぼった独自の「研究課題」を設定して研究を推進した。

(2)研究成果の概要

 本特定領域研究では、「リン酸リレー情報伝達分子機構」に関して「バクテリアから高等植物まで」をキーワードとした統一的テーマを設定し、各研究代表者が独自でかつ相補的な研究を展開してきた。本特定領域研究期間内における成果の達成度は当初の目標を越えて200%近いと自負している。ここでは、目的の達成度を具体的に示すために、「特筆すべき成果10項目」に絞り簡潔に列挙する。(1)大腸菌のリン酸リレー系ネットワークのフレームワークを掌握した。(2)病原性大腸菌O-157(おーいちごうなな)及び黄色ブドウ球菌の全塩基配列を対象にリン酸リレー系の比較研究を完了した。(3)大腸菌における糖応答や運動性制御におけるリン酸リレー系の生理的役割の分子基盤を解明した。(4)分裂酵母のリン酸リレー制御系の全体像に関するモデルを提出した。(5)高等植物シロイヌナズナのリン酸リレー系因子群の全体像をを把握した。(6)植物成長ホルモン(サイトカイニン)受容体を発見した。(7)サイトカイニンに応答した情報伝達分子機能を解明した。(8)高等植物のサイトカイニン合成酵素を発見した。(9)有用植物トウモロコシにおけるリン酸リレー系因子の全体像をを把握した。(10)リン酸リレー系と高等植物の時計機構との関連を見いだし、概日リズムを生む複数の新しい時計関連因子を発見した。以上、本特定領域研究が期間内に達成した成果の関連学問分野へ与えたインパクトは極めて高いと自負している。

5.審査部会における所見

A+(期待以上の研究の進展があった)
 バクテリアから高等植物までのHis・Aspリン酸リレー型シグナル伝達機構の解明という大きな課題に対して、少人数の構成員により効率的に研究を推進し、非常に多くの成果を上げたと高く評価できる。この研究の独創性は特筆に値するものである。特に、サイトカイニン受容体の発見や概日リズムを生み出す時計の中心振動体関連遺伝子群の発見は、植物科学研究の発展に大きな足跡を残した。研究全体の成果は今後、植物科学のみならず、他の関連分野にも貢献することが期待される。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --