研究領域名:心不全の戦略的研究-発生工学を用いた心不全の病態解明と遺伝子・細胞治療-

1.研究領域名:

心不全の戦略的研究-発生工学を用いた心不全の病態解明と遺伝子・細胞治療-

2.研究期間:

平成12年度~平成16年度

3.領域代表者:

小室 一成(千葉大学医学部・教授)

4.領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 我が国では現在年間20万人の新規心不全患者がいると推定されており、今後も高齢化や生活習慣の欧米化などによりこの数はさらに増加するものと予想される。重症心不全の生命予後は癌よりも不良であり、薬物療法による心不全の治療は以前に比べ着実に進歩したとはいえ重症の心不全には無効であることが多く、心臓移植以外に方法が残されていないのが実情である。我が国でも心臓移植が開始されたが、移植適応者に比べドナーの数は圧倒的に少なく、将来的にも広く普及する治療法とは考えにくい。したがって、心不全の病態を解明し予防・治療することは緊急の課題である。これまで心不全に関する研究は血行動態を中心とする生理学的なものが主であったため、分子レベルでの病態・機序の解明は十分におこなわれていなかった。そのため心不全に関する研究は他の研究領域に比べ非常に遅れをとっていると言わざるを得ない。本研究では心不全の病態を分子レベルで解明することと、心不全に対する新たな治療法を確立することの2点に重点を置き、これらを推進させる。心不全の病態解明のために、心不全のモデルとなるような種々の遺伝子改変マウスを作製して解析する。新たな治療法の確立のために、心筋細胞分化や血管新生の機序を解明し、幹細胞を効率的に心筋や血管に分化させる方法を検討する。

(2)研究成果の概要

 心機能の解析に必要な心臓カテーテル検査、心臓エコー検査、心電図検査、血圧測定などをおこなうために、全てマウス用の特殊な機械を開発しそれを操作するための技術を確立した。心不全の病態に関与すると考えられているナトリウム利尿ペプチド、アンジオテンシン2などの神経液性因子、サイトカインにより活性化されるgp130-STAT3(ジーピー130スタットスリー)、三量体G蛋白質、ErbBファミリー受容体チロシンキナーゼなどに着目し、心筋細胞内でそれぞれのシグナルを促進あるいは抑制する遺伝子改変マウスを作製して心機能の解析をおこなった。さらにこれらのマウスを用いて圧負荷心肥大モデル、心筋虚血再灌流モデル、心筋梗塞モデルなどを作製した際の心不全の発症・進展に対する影響も解析することにより、心不全研究に新しい概念と知見を与えた。また、心筋細胞内のCa2+(カルシウムイオン)動態や収縮蛋白系に関連する機能分子(心筋L型Ca2+(カルシウムイオン)チャネルやタイチンなど)に焦点を当てた研究も遂行した。治療法に関しては、骨髄や末梢血液から分離・採取した血管内皮細胞や単核球細胞を用いて、虚血心筋に対する血管新生療法を開発し臨床研究を開始した。また骨髄に存在する幹細胞を用いて再生心筋細胞に分化する細胞を分離し、この細胞を心筋梗塞後の心臓に移植することにより心筋分化を誘導し心不全を治療する方法を開発した。心筋細胞分化に重要な細胞内シグナル伝達分子や転写制御因子を同定した。

5.審査部会における所見

A(期待どおり研究が進展した)
 心不全の病態解明を目的とし、その成果により臨床応用を図る研究である。遺伝子操作によるマウス心不全モデルの作成と各種病態因子の同定、心筋特異的遺伝子導入法などを確立した意義は大きい。マウスを用いた心不全研究の基盤を築いたことは評価に値する。しかし、あくまでマウスにおける心不全に関与する既知の分子を用いた研究であるため、ヒトにおける多様な原因で惹起される心不全のメカニズムにどこまで迫り、臨床応用を可能にするかが今後の課題と考えられる。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --