研究領域名:神経回路の成熟と特異的機能発現のメカニズム

1.研究領域名:

神経回路の成熟と特異的機能発現のメカニズム

2.研究期間:

平成11年度~平成16年度

3.領域代表者:

大森 治紀(京都大学大学院医学研究科・教授)

4.領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 特定領域「神経回路の成熟と特異的機能発現のメカニズム」(略称 神経回路)は、平成11年度に総括班が発足し、実質的には平成12年度から5年間の研究を行った。神経回路は脳の働きを実現している機能単位である。従って、特定領域「神経回路」では神経回路の機能単位としての働きを具体的に理解する事を目的とした。すなわち、脳の働きを、独特の機能を発現する神経回路を構成単位とするシステムとして、始めに捉える。そして、個々の神経回路に特異的な「機能」を明らかにすること、および神経回路の特異的な機能を実現する「分子」の働きを明らかにすることを本研究領域全体の具体的な研究目標とした。
 言うまでもなく、神経回路は様々な分子の機能発現の場でもあり、遺伝情報に基づき分子の働きによって形成される。そして、神経回路は個体の発達に伴い分化し機能的にも成熟し、特異性が実現され、特異的な機能を持つ多くの神経回路が統合される結果として、システムとしての脳の働きが実現されている。このことは、神経回路を研究の場あるいは研究領域とすることによって、分子的な領域の研究からはじまり、より生理学的な、システムとしての脳の高次機能の理解に至る研究が、連続した研究の流れとして実現出来る意義がある。

(2)研究成果の概要

 神経回路の形成および特異的な機能発現を実現する新しい多数の分子が発見され意義づけられた。また、神経回路の特異な働きが具体的なチャネル分子との関連でも明らかになった。A01「神経回路による特徴抽出のメカニズム」では神経回路の独特の働きが詳細に解析され、さらに、神経回路の特異的な機能は、チャネル分子の働きに加えて、神経終末の構造、シナプス伝達の機能発達などを含む、神経細胞機能の統合された結果であることも明らかになった。A02「シナプス可塑性による回路調節」では新しい脳機能イメージング法が確立された。また、海馬の記憶学習に関与する因子の発見、2光子励起によるケージドグルタミン酸の活性化によるシナプスの機能的・形態的可塑性の誘発、小脳プルキンエ細胞における過剰な登上線維の除去メカニズムやアストロサイトのグルタミン酸トランスポーターの神経細胞エネルギー補給に関する重要な役割も明らかにされた。A03「神経回路網形成の分子基盤」では、ショウジョウバエから哺乳類に至る様々な実験系を用いて、神経回路形成の様々な段階に関与する分子の発見と機能解析がなされた。A04「学習と行動の分子メカニズム」では、霊長類大脳皮質領野特異的に発現する遺伝子の発見、Fyn結合分子群として得られたCNR/プロトカドへリンの神経回路形成での発現制御、シナプス長期増強(LTP)に果たすNMDA受容体リン酸化の役割、線虫の連合学習に関わる分子の同定等、学習と行動の分子メカニズムの解析が進められた。

5.審査部会における所見

A(期待どおり研究が進展した)
 神経回路の機能と分子の探求という2大目標を掲げ、広範な研究領域におよぶ大型の組織によって強力に研究が推進された。個々の研究のレベルは高く、また成果の公表にも積極的であり、多くの優れた論文発表や特許申請が行われた。全体としては十分に目標を達成することができたと考えられる。また、若手の育成の観点から、次世代を担う研究者を数多く輩出することができた点は高く評価できる。今後は、各研究者が本研究領域での成果と経験を活かし、異なる研究者間の連携を深めて相乗的な効果を発揮することにより、我が国の脳研究の推進に寄与することを期待したい。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --