研究領域名:植物-病原微生物の分子応答機構の解明-耐病性植物の創出に向けて-

1.研究領域名:

植物-病原微生物の分子応答機構の解明-耐病性植物の創出に向けて-

2.研究期間:

平成11年度~平成16年度

3.領域代表者:

上田 一郎(北海道大学大学院農学研究科・教授)

4.領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 病原体の攻撃に対して、植物が感染するか、あるいは抵抗性を発揮して、感染を阻止するかを決定づける分子機構を解明する。
 種々の病原微生物の攻撃にさらされている植物は、様々な防御機構を備えている。植物の典型的な防御機構として、感染部位における過敏感細胞死があげられる。感染した組織の周辺細胞では、非常に速い時期に、細胞膜部位での活性酸素が産生されて、過敏感反応が始動する。同時に、一連の防御反応関連遺伝子(PRタンパク質、フェノールプロパノイド合成系遺伝子、キチナーゼ、グルカナーゼなど)が活性化される。このような反応は、植物が病原体を異物として認識し、シグナル伝達系を通じて防御機構を作動させた結果と理解されている。また過敏感反応に限らず、病原微生物側の因子がどのように異物として認識されるか、あるいは感染が成立するために宿主因子がどのように関与しているのかを理解することが防御応答機構を解明するために重要である。そこで、具体的には1)植物が病原微生物を認識し、シグナル伝達系を通じて、種々の防御応答が発現する一連の分子機構の解明 1)病原微生物が宿主因子と相互作用して発現させる病原性や宿主の抵抗性の分子機構の解明を目的とした。
 来る21世紀に想定される人口増加に伴う食糧問題に備え、耐病性分子育種への指針を示すことが重要である。また、植物の耐病性を増強することは、農薬使用を軽減した環境保全型農業を目指す上で、欠くことが出来ない。

(2)研究成果の概要

 本研究によって、いくつかの耐病性の具体的な指針を示すことが出来た。ジャガイモ疫病菌において、植物が本来持っている防御応答関連遺伝子を利用して、これを構成的に発現させるのではなく、病原体感染が成立したときにのみ防御応答が発動するジャガイモを作成した。また、ウイルス抵抗性においては、いくつかの宿主抵抗性遺伝子を単離して、その抵抗性分子機構を明らかに出来た。
 様々な病原体の病原性決定因子や宿主の感染応答遺伝子が単離された。植物が感染するか、あるいは抵抗性を発揮して、感染を阻止するかを決定づける分子機構として、植物細胞壁における情報伝達系と防御システムを司る、NTPase(エヌティーピーアーゼ)を単離した。さらに、宿主特異性に関する研究では、毒素感受性の分子機構の一つが明らかにされ、柑橘brownspot病菌の生産するACR毒素のターゲット分子を特定し、病原性の分子機構を解明した。
 ウイルス感染に対する防御応答としてジーンサイレンシングを植物は働かせるが、ウイルスはこれに対抗してサイレンシングのサプレッサー活性を持っている。このサプレッサー活性に関して予想しない成果を得た。まず、ウイルスの病原性に、ジーンサイレンシングサプレッサーが深く関与することを証明した。さらに、全く新たなジーンサイレンシングサプレッサー作用機構を発見した。
 以上、植物の防御応答と微生物の病原性に関する研究を大きく進展させた。

5.審査部会における所見

B(期待したほどではなかったが一応の進展があった)
 本研究領域は、植物とその病原となる微生物の相互作用メカニズムの解明を通じ、耐病性植物の創出を目指して設定された。植物への微生物の感染、加えてそれに対応する植物側の抵抗性の獲得に関しては未だ数多くの謎が残されており、その全体像解明に迫るこの研究領域は非常に意欲的かつチャレンジングである。その大きな謎に臨むべく、領域参画の研究グループは各々が得意とし且つ着手可能な側面からアプローチを試みた。したがって、領域全体としての取り組み方が自ら多面的とならざるを得ず、その結果、領域全体として具体的に統合された研究成果をまとめ上げることが困難であったと見受けられる。また、研究グループごとに到達点が様々であり、領域全体としての総合的な評価水準をどのレベルに求めるか判断し難い。しかし、研究に参画したグループごとに一定の研究成果は得られており、中には早期応用が期待できるレベルの高い発見・成果が複数含まれている点は高く評価できる。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --