研究領域名:分子キャビティーの高度制御によるスマートメンブレンの創成

1.研究領域名:

分子キャビティーの高度制御によるスマートメンブレンの創成

2.研究期間:

平成13年度~平成16年度

3.領域代表者:

辻田 義治(名古屋工業大学大学院工学研究科・教授)

4.領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 海水からの真水の生成等に代表される、高分子膜による物質分離技術は、省エネルギー・環境問題等の観点から、さらなる高効率化が期待されている。しかしながら従来の微細孔径分布を有する無定形高分子膜による分離は、高分子膜中の広い微細孔径分布に由来して、高度な分離性を発現できない状況である。本領域研究では、低分子物質の形状及びサイズをそのまま高分子膜中に保持した分子オーダの微細孔あるいはある特定の低分子物質とだけ相互作用する空間場と定義される“分子キャビティー”の形状、サイズ、連結性および数量などを種々制御した高度に秩序度を有する高分子膜(スマートメンブレン)の創成と、その高度な選択透過・分離機構の解明を目的とする。スマートメンブレンの分子設計段階からの創成とそれが示す高度で高効率な分離機能の機構解明から、省エネルギー・環境問題に関わる種々の低分子物質の新規で高効率な膜分離技術を切り開くための指針を得ると同時に、高分子-低分子間相互作用の解明、高分子膜中における低分子物質の拡散・透過性、高分子膜中の分子キャビティーの構造制御に関する高分子物理化学の基礎研究の発展に対する多大な貢献も期待される。

(2)研究成果の概要

 本特定領域研究では、スマートメンブレンの「創成:A」、「キャラクタリゼーション:B」、「シミュレーションによる分子設計と機能予測:C」、「分離性能と評価:D」の4班を設定し、互いに密接に連携を取りながら数多くの顕著な成果を挙げた。具体的には、生理活性物質の光学分割や血液からの血球分離を可能にする膜、シーケンシャル高分子薄膜や新規高プロトン伝導性膜、並びにC班でシミュレーション設計された新規環状イミドを合成し、これと高分子マトリックスとの複合膜、などの作製に成功した(A班)。本研究で開発した高磁場勾配NMR法を用いてプローブガス分子の拡散係数の高精度計測を行い、高延伸ポリエステルがスマートメンブレンとして優れた材料であることを証明した(B班)。分子動力学(MD)シミュレーションにより、剛直環状分子を用いたスマートメンブレンの分子設計と機能予測や、高分子結晶内の分子キャビティーと低分子との相互作用の予測を高精度で行えた(C班)。特異な結晶構造特性を有する高分子を利用したり、ミクロ相分離構造の制御や分子キャビティーとしての働きが期待される成分を導入したりして、分子キャビティーの形状・サイズ・連結性及び数量を制御したスマートメンブレンを創成し、これによる新規で高度な透過・分離機構を提案した(D班)。

5.審査部会における所見

B(期待したほどではなかったが一応の進展があった)
 本研究において、分子キャビティーの形状や大きさが揃った高分子が合成され、分離の選択性が確認された。しかし、従来の高分子との比較の議論が少ないために、どの程度まで分離機能が向上したのかという定量的な知見や構造に関する実験的な知見が不足している部分も見受けられる。シミュレーションと実験の連携は見られるものの、もう少し各班の連携を深める必要があったように思われる。本研究が基になった国際シンポジウムの開催がなく、成果公表にあたる努力が不足していたように見受けられる。以上の点より、特定領域研究としては、個々の研究進展があるものの、特段の成果や相乗効果があまり見受けられないと判断した。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --