局在量子構造に基づいた新しい材料機能創出技術の構築
平成12年度~平成16年度
足立 裕彦(京都大学・名誉教授)
局在量子構造とは、結晶の表面、界面、点欠陥などの不連続点に局在した電子のつくる特異な場や電子状態を意味する新語である。すでに実用化されている機能材料や構造材料のほとんどが完全結晶での特性ではなく、局在量子構造のもつ特異性を利用している。したがって材料設計・開発のためには、局在量子構造の本質を的確に理解した上で、これを目的に応じて制御することが最も重要である。しかしこのような観点からの材料研究は、きわめて限定的であった。それは、局在量子構造の概念を実際の材料開発に応用するための方法論が確立していなかったためである。本領域は、この方法論を、新しい材料機能創出技術として構築し、社会に提示することを目的として計画された。
局在量子構造あるいは電子論の観点から見ると、構造材料と機能材料、金属とセラミックス、半導体など広範な材料を同じ土俵の上で議論できるので、旧来の学問体系の枠組みを越えた横断的な議論が可能となる。ここから新しい学問体系が生み出され、汎用的な材料機能創出技術が構築できる。本領域研究では、材料の電子論計算に長年携わってきた領域代表者のリーダーシップのもと、異なる学問基盤や研究手法の異なった実験と理論計算のエキスパートが、局在量子構造を共通言語として恰も融合した1つのグループであるかのごとく緊密な連携研究を進めた。その結果、多くの具体的な成果が得られ、これを積極的に国内外に向けて発信することで、社会還元に貢献した。
領域研究の前半では、多岐におよぶ材料を対象に、旧来の学問分野で個別に議論されていた問題を局在量子構造のキーワードのもとで整理すること。そして新しい計算方法を開発し、材料解析支援技術を確立すること。さらに具体的な問題をコア研究テーマとして選択し、5つの班が融合した密接な連携研究を行うことを目標とした。連携研究の対象として選択したのは酸化亜鉛であり、1.ドーパントと空孔の作る局在量子構造、2.X線吸収スペクトル解析技術、3.界面における局在量子構造の3つのテーマについて質の高い成果が得られた。
この成果に立脚して領域研究の後半に設定した目標は、確固たる連携研究体制をもとに、新しい材料機能創出技術を実証することであった。実際の材料開発を行うというだけでなく、材料評価技術の確立、新しい材料を系統的かつ的確に設計する技術の構築を強く意識した。その結果、第一原理計算法に基づいた超微量やサブナノ空間分解能でのドーパント解析技術や多電子計算に基づいた新しい電子相関評価技術を確立した。また材料設計のための有限温度物性の予測技術や単一粒界デバイスの設計技術を開発した。そしてチタン酸化物系の環境触媒や軽元素修飾による酸化亜鉛発光材料、耐高温クリープ特性に優れたアルミナセラミックスをはじめとする具体的な材料開発にも大きな成果をあげた。
以上述べたように、本領域研究を通じて局在量子構造のキーワードのもと、汎用的な材料機能創出技術を構築し、それを実証して社会に提示することに成功した。
A(期待どおり研究が進展した)
「局在量子構造」というキーワードの下、理論グループと実験グループとが連携して微小領域の測定や機能の設計・発現がなされ、計算科学が材料設計に有効であることを実証できた。そこでは、広大な分野の中から上手くサブセットを切り出して領域が設定され、多岐に亘る成果を得て当初の目的を達成し、期待された成果を上げたものと評価できる。特に、横断的成果の下で関連分野を結びつけることのできた点に意義が認められる。
研究振興局学術研究助成課
-- 登録:平成23年03月 --