研究領域名:北極域における気候・環境変動の研究

1.研究領域名:

北極域における気候・環境変動の研究

2.研究期間:

平成11年度~平成16年度

3.領域代表者:

藤井 理行(情報・システム研究機構国立極地研究所北極圏環境研究センター・教授)

4.領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 北極域は、地球規模の大気や海洋にとって冷源域であり、低緯度側熱源域との気温傾度に起因する大気大循環や深層水形成に因る海洋コンベアベルトの駆動を通じ、地球規模の気候や環境に深く関係している。また、北極域は地球温暖化や降水の酸性化など人為的な原因による大気環境変化が最も鋭敏に現れる地域でもある。近年の地球温暖化は、北極域で最も進行していると考えられ、本研究領域では、北極圏における環境変動の実態とその変動メカニズム、陸域生態系への影響解明を目的に設定し、国際共同観測を軸に大気、雪氷、海洋、陸域環境、超高層大気の5分野で現地観測を軸に研究を進めた。
 北極における気候および環境変化を、学際的、国際的、さらには組織的に取り組んだのは、本研究がおそらく世界でも初めてのことであった。その結果、例えば、北極域における炭素循環に関して、下部成層圏での広範囲な分布、地上での長期変化傾向と季節変化成分、北極海での炭素吸収の季節変化、ポリニアと呼ばれる冬季でも結氷しにくい海域での基礎生産に伴う炭素吸収、温暖化が進行するツンドラ植生域が炭素吸収域であること、など多様な知見を得ることができた。

(2)研究成果の概要

 地球上で最も急速な温暖化が進行していると考えられる北極域であるが、研究例がほとんどない旧ソヴィエトの過去数十年の気候データの解析の結果、温暖化は冬季の最低気温の上昇として起こっていること、特に、中央シベリア南部ではその速度は3度/10年を超える速さであることが分かった。また、スバールバル諸島やグリーンランドで掘削したアイスコアからは、1910年~1920年頃の気温のジャンプを含む過去数百年スケールの気温変動とともに冬季の北極振動が検出でき、過去にさかのぼっての北極域の気候変動モードの復元ができた。また、北極振動が北極域での気候を支配していることも明らかとなった。
 北極域における炭素循環についても、多くの新たな知見を得た。スバールバルの観測基地での長期にわたる温室効果ガスの観測から、CO2濃度が赤道海域のエルニーニョ現象に密接に関連していること、CO2濃度の季節変化成分は大気と陸上生物圏との間のCO2交換に強く依存していることなどが明らかとなった。また、高緯度北大西洋がCO2のシンク海域であること、温暖化の進行にも係わらずツンドラ植生域がシンク域になっているとの知見も得た。さらに、北極海域のポリニアと呼ばれる冬季でも結氷しにくい海域での調査は、ポリニアでの基礎生産が他の海域と比べ多く、生物ポンプが強く機能し、CO2のシンク海域になっていることも明らかとなった。
 また、春先に現れる「北極ヘイズ」の航空機観測から、汚染物質が北ヨーロッパやシベリア域の工業地帯から長距離輸送されることが示され、炭素成分を含むことから大気を暖める効果があることが分かった。アイスコアの研究は、こうした大気汚染が1950年代以降急速に進行していることも明らかになった。

5.審査部会における所見

A(期待どおり研究が進展した)
 北極圏の一連の観測により、多くの成果が得られた。特に、メタン、二酸化炭素の濃度の連続観測結果は、これらの温室効果ガスの変動原因を知る上で重要な手がかりとなる。一方、領域内の連携は不十分であり、領域全体としてのまとまった成果が得られたとは言い難い。今後は、例えば観測とモデリングとの統合を図るなどして本研究で得られた成果をさらに発展させることが望ましい。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --