研究領域名:陽子・陽子衝突によるTeV領域の素粒子物理

1.研究領域名:

陽子・陽子衝突によるTeV領域の素粒子物理

2.研究期間:

平成11年度~平成16年度

3.領域代表者:

近藤 敬比古(高エネルギー加速器研究機構素粒子原子核研究所・教授)

4.領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 CERN(セルン)(欧州合同原子核研究機関)では全世界からの国際協力でLHC加速器を2007年までに建設し、重心系エネルギー14TeV(テラエレクトボルト)で高い輝度(1034cm-2s-1)の陽子・陽子衝突を実現する。この加速器を使って1TeV(テラエレクトボルト)のエネルギー領域における新粒子の発見や素粒子反応の測定をめざす実験装置「アトラス」を国際協力で建設する。本研究領域では、アトラス検出器部分の設計・開発・プロトタイプ製作・製造・検査・運搬・据付・較正・試運転を行う。日本が分担する建設は、端部ミューオントリガーチェンバーとそのトリガー回路システム・ミューオン飛跡測定用時間測定集積回路・超伝導ソレノイド電磁石・シリコン半導体飛跡検出器である。またデータ収集技術と測定器シミュレーションの開発・整備を行う。LHCでの物理の検討やシミュレーションを行いデータ解析の準備を行う。
 標準模型は、クォークとレプトンおよびその間に働く強い力・電磁気力・弱い力を高い精度で説明する。しかしこの理論はヒッグズ場を必要とし、W/Z(ダブリュー及びゼット)ボゾン・クォーク・レプトンの質量の起源も説明する。ヒッグズ場に伴うヒッグス粒子は最低1種存在するがまだ発見されてない。LHCでは実験開始後数年以内に、ヒッグス粒子の存在を実験的に発見ないし否定できる。発見後はその性質を測定する。またフェルミオンとボゾンの対称性による超対称性粒子などを探索する。

(2)研究成果の概要

 本領域研究のもとでアトラス実験装置の建設を推進し、以下のような進展を得ることが出来た:

  • アトラスの端部ミューオントリガー用のTGCチェンバーを量産するため、高エネルギー加速器研究機構で製造設備の建設を行い製造技術の開発に成功した。2001年~2005年に1200台のTGCチェンバーの製作を終了した。94%~99%の良品率が得られた。
  • 神戸大学に宇宙線検査ステーションを構築し、全てのTGCチェンバーの検査を行った。殆どは検出効率98%以上を示した。検査に合格したチェンバーをCERNに輸送した。
  • TGCチェンバー信号読出用のASDチップとボードの製造・検査に成功した。トリガー回路システムの全体設計を行い4種類の集積回路の設計と生産を終了した。
  • ミューオン飛跡検出器からの信号タイミングを測定するAMTチップの設計を完了し40万チャンネル分を量産した。
  • アトラス超伝導ソレノイド電磁石を設計・製造・検査しCERNに送った。CERNでカロリメターに組み入れ後励磁試験に成功した。2004年に地下実験室に運搬された。
  • 耐放射線性をもつシリコン半導体センサーの開発を行い、センサー6000枚の生産と検査を終了した。センサー4枚と読出回路を一体化するモジュールの設計・量産を行い980台のモジュールを完成した。モジュールをシリンダーに自動的に設置するロボットを設計・製造した。
  • 素粒子の物質内の振舞いを詳細に記述するソフトGeant4(ジアントフォー)を構築し完成した。LHC用計算機環境の開発・整備を進めた。LHCにおける陽子・陽子衝突の素粒子物理の検討を続けている。

5.審査部会における所見

A(期待どおり研究が進展した)
 アトラス実験のために日本グループが担当する各検出器群(ミューオントリガー用チェンバーとその読み出し回路、ミューオン飛跡検出器用読み出し回路、シリコン半導体センサー、超伝導ソレノイド電磁石)の開発と建設、及びソフトウェアの整備に関して、当初の設定目標がほぼ達成され、日本の貢献が示されたと評価できる。ただし、科学的成果は実験開始後の課題である。今後のアトラス実験の推進においては、研究成果の周辺領域や一般社会への積極的な普及に努めることを期待する。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --