研究領域名:世代間の利害調整に関する研究

1.研究領域名:

世代間の利害調整に関する研究

2.研究期間:

平成12年度~平成16年度

3.領域代表者:

高山 憲之(一橋大学経済研究所・教授)

4.領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 本領域は「世代間の利害調整」という新しい切り口を前面に押しだしながら、日本をはじめとする世界の国ぐにが今日直面している人口高齢化・少子化・地球温暖化などの諸問題を経済学および政治学の立場から研究してきた。そして、その研究結果をふまえ個々の問題に即した具体的提言をいくつか試みた。その研究目的は年金・医療・雇用について世代間利害の実態を解明し利害調整方法を具体的に提案すること、開発途上国や移行経済国における世代間利害の構造を明らかにすること、世代間衡平性について原理的考察を深めた上で適切な負担原則を提案すること、世代間利害を円滑に調整するために政治がいかに変わらなければならないかを示すこと、などにあった。
 上記の諸問題は地球的規模で発生しており、当該領域は社会的要請がきわめて高い研究となっている。研究の切り口が新しいこともあり、内外の注目度もかなり高い。上記の研究目的が達成されると、我が国における学術水準のいっそうの引き上げに大いに貢献することになる。さらに当該領域の研究成果を内外の研究機関へ提供すれば、双方向の情報ネットワークが形成され、国際的にみて遜色のない研究水準が確保される可能性が高くなる。この点において学術研究上、先導的意義が認められる。

(2)研究成果の概要

  1. 日本における公的年金の現状をバランスシート・アプローチによって解明し、過去拠出にかかわる超過債務600兆円超をいつ、誰が、どのような形で、どこまで圧縮するのかについて具体案を示し、それと2004年の年金改正法との違いを明らかにした。
  2. 国民健康保険のレセプトデータを利用して高齢者医療需要の価格弾力性を推計し、外来費については0.4程度、入院費0.1程度という結果を得た。
  3. 日本の企業は1990年代に中高年従業員の増加に対する人件費抑制策として若年採用を減らしたという事実(中高年雇用による若年雇用の置換効果)を実証的に確認した。
  4. 人口が減少する国の経済は生産や貿易の構造が変わり、質的に従来とは違った国になる可能性がある。また子育てにはネットワーク性があるので、子供の数が減ると子育て費用は高くなり、それが少子化をいっそう加速するおそれがある。
  5. 所得税中心主義を維持しつづけた国では近年、税収の拡大が抑制される一方、1970年以前に付加価値税を導入していた国では、その後も租税負担が拡大した。租税政策にはこのような経路依存性が認められる。
  6. 日本の年金制度に対する信頼性には世代間で大きな格差が存在している。

当研究プロジェクトの研究成果はすでに英文の研究書2冊にまとめられ、また和文の研究書シリーズ7冊も平成18年度までにすべて刊行される予定である。

5.審査部会における所見

A+(期待以上の研究の進展があった)
 本研究領域では、5年間に論文635点、最終的な成果を取りまとめた英文研究書2点等を刊行し、学界と実務に対して多大の貢献を実現した。世代間の衡平性に対して経済学的および政治学的にアプローチし、世代間の利害調整を実態的、原理的、政策論的に解明するという所期の目的を十分に達成している。とくに評価すべき点は次のとおりである。第一に、医療・介護、年金、少子化等の焦眉の課題について、理論モデルの構築とシミュレーションとを行った上で有効かつ具体的な政策提言を導出している。第二に、世代間の衡平性を経済学、政治学、倫理、哲学の統合という側面から考察し、新たな研究領域を切り拓いた。第三に、国際的比較政策研究として有意義な研究成果が得られ、同時に、国際的なレベルからジャーナリズムに至るまで多様なメディアを通じて具体的な政策提言が発信され、社会的貢献が極めて大きい。他方で、次のような課題が残された。第一に、個別課題間の連関が不十分なため、包括的かつ一般論的な衡平性の原理の導出にまで至っていない。これは、「世代」が明確には限定されず、その定義が若干不十分であることに由来すると思われる。第二に、研究面の顕著な進展に比して、若手研究者養成等の教育面が若干弱く、その強化・充実がさらに図られるべきであった。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --