研究領域名:東アジア出版文化の研究

1.研究領域名:

東アジア出版文化の研究

2.研究期間:

平成12年度~平成16年度

3.領域代表者:

磯部 彰(東北大学東北アジア研究センター・教授)

4.領域代表者からの報告

(1)研究領域の目的及び意義

 東アジアで開始された木版印刷とその出版事業は、知識の獲得と伝達、そして文化の構築に重大な役割を果たした。東アジア近世社会の形成は、印刷を核とする出版文化という基盤の上に樹立されたと言える。しかし、出版を基軸とする文化・社会の研究は皆無に等しく、学問領域として確立されるには到っていない。
 本研究領域の目的は、東アジア世界の近世から近現代に至る1,000年間の木版技術を主とする出版、及びそれを支える作家・作品や出版者、或は、為政者の言論統制などを一つの大きな文化-出版文化-として捉え、出版文化をその要素から細分化した7つの研究分野-A)出版機構、B)出版物、C)出版環境、D)出版文化論、E)出版政策、F)出版交流、G)出版情報・書目-によって分析を加え、東アジア地域における、近世から近現代に到る出版文化が、地域社会の形成や社会変革の歴史などといかに関係していたのか、将来、知識伝達システムと出版はどのような関係をたどっていくのかなどを解明することにある。そして、その成果に立脚して、世界をリードする我が国の新しい学問領域として東アジア書誌・出版文化学を確立することを目指し、他の分野とともにアジア研究のレベルアップに参画することを目標とする。併せて、文献学の若手育成という学術研究の基盤整備及び伝統的な活字文化の保全という意義も持つ。

(2)研究成果の概要

 本領域では、東アジア出版文化学という新学問領域確立を目指し、まずその基盤整備のための個別研究と共同研究を並行して進めた。その結果、計画・公募及び協力研究により、出版文化に関する多様な論文・目録データベース250余件、資料集・図録などの単刊本30冊、情報交換を主とするニューズレター9冊を公表するに到った。また、国内外の研究者及び一般市民・学生との連携を拡大し、後継者育成も兼ねて、研究集会、国際学会、研究成果展覧会、市民フォーラムなどを企画し、多数の参加者を得、本領域への関心を掘り起こした。国際ネットワークとしては、70余名の招聘研究者を通し、東アジア出版研究に力を入れる10ヶ国以上の国々と情報交換するに到った。
 一方、本研究領域の目的達成のため、共同研究を進める上でメンバーの意識を束ねる核として、具体的な数値目標4項目を立て、その達成度を研究の進行指標とした。その内、1.学術上重視すべき未公開典籍の複製作成と保存、2.日本国内及び外国所在未整理の和書漢籍調査と目録の作成の2点の数値目標は、アジア学研究に重要な資料を提供し、未整理和漢書のデータベース化によってほぼ達成した。残りの3.東アジア出版文化学事典の編集、4.東アジア善本典籍の選定と提要作成の2点はその体制作りを整えている。事典の編纂と善本の選定は一朝一夕には成るものではなく、難易度の高い事業を数値目標に取り入れた点などに反省点もあるが、その端緒を開いた点は達成度としては不十分ではあるものの、今後東アジア出版文化学確立に向けて基礎作業を行なったという点での意義を持つと考えられる。今後とも、その数値目標達成に努力する所存である。本領域をめぐる成果及び情報は、インターネットを通じて随時発信されている。

5.審査部会における所見

B(期待したほどではなかったが一応の進展があった)
 東アジアを対象として、従来の書誌学の枠を超えた多岐にわたる研究が着実に進められ、当該分野の個別研究において多くの有意義な成果が上げられた。しかしながら領域研究が目的とした東アジア文化学の創出という点では、研究全体を統括する方法論が不十分で、明確な成果を導くにはいたらなかった。ただし、将来に向けての基礎的な研究が整備され、光が当たりにくい領域における若手研究者の育成に貢献した点は評価できる。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --