研究課題名:個体生命を支える素機構の統合

1.研究課題名:

個体生命を支える素機構の統合

2.研究期間:

平成12年度~平成16年度

3.研究代表者:

近藤 壽人(大阪大学大学院生命機能研究科・教授)

4.研究代表者からの報告

(1)研究課題の目的及び意義

 ゲノム情報が生命の活動へと変換される舞台である細胞において、その変換を担うさまざまな素機構を解明するとともに、それらの素機構が統合された、個体レベルにまでおよぶ制御システムを研究した。これらの素機構は、個別の異なったプロセスとして取り扱われがちであったが、実際には互いに連動しあって機能するものであり、これらの素機構が構成するシステム全体の調節機構を統一的に解明することが必要であった。体を構成する数10兆個の細胞の各々で、そのシステムが絶え間なく正確に作動することによってはじめて、健全な個体が発生し、多様なストレスに対する防御応答が可能となり、がんをはじめとするさまざまな疾病が抑制される。
 本研究では、各々がその専門分野で世界をリードする6グループが共同研究を実施し、素機構間の相互関係を明らかにしていった。ゲノム情報の発現に関する素機構とそれらの統合システムの研究、ゲノム情報の複製と維持に関する素機構とそれらの共役システムの研究、そしてこれらの2システム間をつなぐ制御機構へと研究を展開した。素機構やそれらの共役に要となる機能分子を明らかにしたうえで、その機能分子を失ったノックアウトマウスなどを作製して、個体レベルでの効果を検証した。
 本研究によって、個々の素機構に関する新たな発見がもたらされ、さらに素機構間の共役によって成立する統合システムのダイナミックな作動が明らかになった。個体の成立と維持にかかわる諸研究分野に大きな影響を与えることが期待される。

(2)研究成果の概要

 研究開始時にはいまだ発展途上にあったゲノミクス・プロテオミクスの研究方法を、本研究共通の研究基盤として当初から積極的に活用して、各素機構や素機構間の共役の要となる機能分子を明らかにし、さらにそれらの機能分子を失ったノックアウトマウスを作製するなど、個体レベルの研究を展開した。
 ゲノム情報の発現に関する機構については、転写制御因子複合体によるゲノム上の制御標的遺伝子群を選別する機構、細胞特異的・シグナル依存的な核内外分子輸送のダイナミックな調節に支えられた転写制御システム、転写制御因子遺伝子自体が受ける多彩な制御を基礎づける機構などを、統合されたシステムとして明らかにするとともに、それらのダイナミックな作動を示した。ゲノム情報の複製と維持に関する機構については、ゲノム情報の複製と修復を司る蛋白質複合体群、またそれらの制御の破綻に応答する細胞死プログラムを発動させる蛋白質間相互作用を解明し、それらの作用を精緻に制御する核輸送の調節を明らかにした。また、アポトーシス、ネクローシス、オートファジーなど異なった細胞死プラグラムの個々の制御プロセスを示した。特に、DNA損傷に対する防御機構と広汎な細胞ストレスに対する防御機構の間の共通性を明らかにしたことは重要である。さらに、ゲノム情報の発現とゲノム情報の維持との間を繋ぐ制御システムについて重要な手がかりを得た。これらの研究によって、個体生命を支える素機構の統合の更なる理解に向けて、発展性を持った研究基盤が築かれた。

5.審査部会における所見

A(期待どおり研究が進展した)
 本特別推進研究は、発生学と細胞生物学の融合を核とし、従来個別に発展してきた関連研究分野の統合や研究リソースの共有を通じて、新たな発見および斬新な研究手法の開発を目指す意欲的なものである。元来、生物個体の存在を支える「素機構の統合」とは生物学における最大の課題ともいうべきものであり、この大課題を当該規模の研究グループに掲げて取り組むことで如何なる成果が得られるのか困難も予見されていた。しかし現実には、代表者のリーダーシップのもと、国際的に評価される顕著な研究成果が多数産み出されており、その達成度の高さを表している。また、国際シンポジウムを開催するなど、研究成果の積極的な公表に努め、当該研究分野の情報発信拠点としての存在を強く意識した点も評価できる。加えて、本研究の拠点となる研究機関(大阪大学)は生命機能研究科を開設し、本研究グループの研究進展に好影響を及ぼした。この事実は特別推進研究(COE)としての研究設定の意義を反映している。以上、本研究課題は期待どおりの成果を上げたことを大いに評価した。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --