研究課題名:細胞内シグナルフローの可視化解析

1.研究課題名:

細胞内シグナルフローの可視化解析

2.研究期間:

平成12年度~平成16年度

3.研究代表者:

飯野 正光(東京大学大学院医学系研究科・教授)

4.研究代表者からの報告

(1)研究課題の目的及び意義

 細胞内シグナル分子は、生体内で極めて複雑な時間的・空間的パターンをとり、それが細胞機能を調節する上で重要な意味を持つことが分ってきた。このことが最初に注目されたのは、生細胞において細胞内動態を可視化する技術が早期から進んだCa2+(カルシウムイオン)シグナルについてであり、研究代表者らを含めた内外の研究グループによって、複雑な時間的・空間的パターンをとる巧緻な仕組みが明らかにされつつある。Ca2+(カルシウムイオン)シグナル以外についても、シグナル分子を細胞内で可視化し、生きた状態で追跡できれば、Ca2+(カルシウムイオン)シグナルの場合と同様にダイナミックな空間的・時間的解析が可能となり、それらの分子の機能に新しいパラダイムを見いだすことができるはずである。本研究では、Ca2+(カルシウムイオン)シグナルおよびその関連シグナル伝達機構に着目し、シグナル分子を生きた細胞内で可視化して追跡できるインジケーターを開発し、それらの分子の細胞機能制御メカニズムを明らかにすることを目的とした。

(2)研究成果の概要

 イノシトール三リン酸(IP3)インジケーターに加えて、一酸化窒素(NO)、ミオシン軽鎖リン酸化、小胞体内腔Ca2+(カルシウムイオン)濃度、ミトコンドリア内腔Ca2+(カルシウムイオン)濃度、BADリン酸化などのインジケーターを新たに開発した。これらを用い、細胞機能制御メカニズムを追究した。まず、細胞機能制御全般に深く関わる最も基本的なシグナル伝達機構の一つであるCa2+(カルシウムイオン)オシレーションについて、その分子細胞機構および生理的意義を解明した。Ca2+(カルシウムイオン)シグナルの上流に位置するIP3シグナルについては、中枢神経細胞におけるIP3イメージングを行い、Ca2+(カルシウムイオン)シグナルからIP3シグナルへのフィードバック機構を発見し、中枢神経活動の強度を検出して細胞内へ伝達する際に重要な役割を果たすことを示した。また、Ca2+(カルシウムイオン)シグナルの下流では、中枢神経シナプスレベルのNOシグナル可視化に初めて成功し、中枢神経系におけるNOシグナルの生理的役割を解明した。その他にも細胞周期と細胞死の関連の発見など、Ca2+(カルシウムイオン)シグナルおよびその関連シグナル伝達機構研究領域において基本的に重要な成果をあげた。さらに、本研究によりIP3-Ca2+(アイピースリーカルシウムイオン)シグナル系の特異的抑制法と効果的siRNA(エスアイアールエヌエー)ライブラリー作成法が開発され、Ca2+(カルシウムイオン)シグナル及び関連シグナル伝達研究を新たな領域に導く基盤が整備された。

5.審査部会における所見

A(期待どおり研究が進展した)
 細胞間シグナルとして働くいくつかの分子のインジケーターを開発することにより、生きた細胞内でのシグナル動態を可視化解析するための基礎的技術の構築に成功しており、当初の目的は達成された。カルシウムイオンやNOの微量測定ができることは、将来の研究分野への貢献が期待される。特に、NOインジケーターなどの応用は、神経細胞にとどまらず、植物などの細胞へも広げていける可能性があり、波及効果も大きい。インジケーターを国内外に配付するなど技術の普及に努めていることは高く評価される。全体的に優れた成果と評価できるが、学問的にさらに踏み込める余地は残されているものと判断される。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --