研究課題名:炭素クラスター複合体の精密有機合成化学

1.研究課題名:

炭素クラスター複合体の精密有機合成化学

2.研究期間:

平成13年度~平成16年度

3.研究代表者:

中村 栄一(東京大学大学院理学系研究科・教授)

4.研究代表者からの報告

(1)研究課題の目的及び意義

 フラーレンの発見以来20年経った現在、炭素クラスターの研究は新しい局面を迎えている。2002年よりフラーレン、ナノチューブの大量合成が世界に先駆けて我が国で企業化され、ナノテクノロジーの中核技術としてますます注目されている。しかし、これまでの研究のほとんどがフラーレンおよびナノチューブそのものに関する研究である点で、今後の展開に限界を感じさせるところもある。本研究代表者は「炭素クラスター複合体の精密合成化学」という化学研究の新分野を確立することで、炭素クラスター複合体の無限の可能性を切り拓くべく本特別推進研究を立案・遂行した。
 本研究の目的は、炭素クラスター同士の複合体、炭素クラスターと有機分子、金属、生体分子などとの複合体を、炭素共有結合形成を鍵にして望みのままに作り出すことである。これまで報告された炭素クラスターの化学修飾反応はほぼ例外なく複雑な混合物を与え、手の込んだ単離精製を必要とする反応である。本研究は実験および理論化学的手法を駆使して「簡明直截・高効率・高選択的」な究極的有機合成を炭素クラスターの世界に実現し、これによって炭素クラスター複合体の構造構築と物性の高精度制御を実現する。その結果、次世代の材料科学、ナノテクノロジーや医学に資する新しい機能性物質を創り出すと同時に、精密合成化学、触媒化学など基礎化学分野での新発見ができると期待して研究を行った。

(2)研究成果の概要

 代表的な研究成果は以下のようなものである。

1) 高効率多重付加反応の開拓:高効率・高選択的炭素クラスター化学修飾反応をさらに機能性分子合成に有効な手法とすべく研究を進め、有機銅試薬の多重付加反応が多種多様な官能基の導入に適したものであることを示した。また、高次金属内包フラーレンや金属内包ナノチューブの合成と構造決定を行い、化学修飾金属内包炭素クラスターの合成へと展開した。

2) 材料科学への展開:フラーレンシクロペンタジエンを基礎骨格として、機能性材料へ応用可能なさまざまな有機物質を創り出した。バッキーフェロセンに代表される種々のフラーレン-遷移金属錯体を合成し、触媒科学への応用を行った。また、フラーレン骨格から共役π電子系を切り出すことにより、これまでに合成が達成されていなかった、[10](じゅう)シクロフェナセン(最短のカーボンナノチューブにあたる)の電子系を初めて創り出し、その芳香族性や発光特性などを明らかにした。さらに、「球と羽根」の新しい形式での分子認識によるナノシャトルコック液晶を創りだすことに成功した。

3) 生物学への展開:フラーレン-アミン複合体による遺伝子導入法を深化させ、本手法がこれまでの化学的遺伝子導入法に比べはるかに優れた生物学的手法になることを示した。

5.審査部会における所見

A+(期待以上の研究の進展があった)
 フラーレン化学と精密有機合成化学を融合させ、フラーレンを核とした新規の誘導体、金属錯体、複合体を数多く創出することによって、物質科学の新領域を拓いたことを高く評価する。材料科学や生物学への展開も積極的になされ、関連学問分野への研究成果の波及効果は大きい。国際的に評価されている極めて高い研究成果であり、特別推進研究として期待以上の研究の進展があったと判断した。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --