研究課題名:量子ドット構造による電子物性の制御と次世代エレクトロニクスへの応用

1.研究課題名:

量子ドット構造による電子物性の制御と次世代エレクトロニクスへの応用

2.研究期間:

平成12年度~平成16年度

3.研究代表者:

榊 裕之(東京大学生産技術研究所・教授)

4.研究代表者からの報告

(1)研究課題の目的及び意義

 半導体は、電子や正孔の多寡に応じて、伝導率や光学利得が増減できるため、FETやレーザなどに広く活用されている。これらの電子や正孔を効率よく制御する手段として、ナノメートル(nm)級の超薄膜構造が開発され、FETやレーザの心臓部に使われるとともに、電子の量子力波動性を利用した新素子の実現にも活用されつつある。電子の運動やその波動性を極限まで制御する試みとして、10nm級の断面寸法を持つ量子ドット(箱)や量子細線構造とそのFETやレーザなどへの応用が、四半世紀程前に本研究代表者らによって提案された。80年代後半からは実験的研究も始まり、零次元電子や1次元電子の示す性質や機能が次々と明らかにされ、固体物理学の最前線の研究対象として注目を集めている。しかし、ドットや細線の形成法が未熟なため、実現できる形状や組成に制約があり、所望の素子機能の達成も、低次元電子の多様な物性を明らかにすることも困難であった。本研究では、まず量子ドットや細線の形状の制御性や組成の多様性を格段に高めて、電子の量子準位間隔を所望の状況に設定する技術の開拓を目指す。次に、この技術を駆使し、量子ドットと関連ナノ構造を形成し、光学特性と伝導特性がどこまで制御できるかを明らかにする。また、得られた知見を活かして量子ドットを用いた単電子素子、メモリー、レーザ、単一光子源、光検出器などの飛躍的な高性能化を図るとともに、量子ドットとナノメカニクスの結合など新たな可能性も探り、固体物理、エレクトロニクス、フォトニクスの最前線を開拓する。

(2)研究成果の概要

 量子ドットなど半導体ナノ構造の形状と組成を制御し、新しい物性や魅力ある素子機能を実現・解明するための研究を進めた。まず、InAs(インジウムヒソ)系量子ドット(quantumdot:QD)の形成法を改良し、光通信に適した波長1.3-1.5μm帯で蛍光を発し、世界最小の蛍光線幅(16MeV)を示すドット群を実現した。これを用い、温度制御無しで10Gb/s(ギガビット毎秒)で変調可能なQDレーザや光通信波長帯で動く単一光子発生器を実現した。また、ドット内の電子や正孔の数を光励起で変化させ、光検出器として活かす道を開いた。さらに、高品質GaN系QDを実現し、強いシュタルク効果や特異な二重励起子の振る舞いを見出すとともに、GaSb(ガリウムアンチモン)系の電子・正孔分離型の量子リング構造を実現し、新知見を得た。
 他方、SiMOS(シリコンモス)構造のナノ加工法を進化させ、2nm程のSiドットを含む単電子トランジスタ(SET)を実現、室温で負性抵抗や40:1に及ぶクーロン振動を達成した。単一の自己形成InAs(インジウムヒソ)ドットに微細電極を設け、優れたSET特性も実現した。さらに、2経路干渉計の一方に量子ドットを埋め込んだ素子を調べ、Fano共鳴を反映したクーロン振動が現れることや、電子波のコヒーレンスの減衰率が電子のスピン状態に強く依存することも示した。また、量子細線やナノチューブの電子伝導・FET作用・励起子状態、各種の面内超格子の伝導特性の特異性を明らかにするとともに、超格子内のBloch振動によるテラヘルツ発振、有機ナノ分子材料を用いた面状センサなどでも新知見を得た。

5.審査部会における所見

A(期待どおり研究が進展した)
 量子ドット・量子細線・量子薄膜の作成法、これらの電子物性の解明、さらにはデバイス応用と、幅広い分野でトップレベルの成果を上げており、世界をリードする優れた研究成果を残したことは疑うところがない。また、特別推進研究(COE)として十分にその機能を果たしたと考えられるが、今後も世界に認知される拠点形成を目指して、グループ間の相互協力など組織的な活動が望まれるところである。

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研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --