研究課題名:元素科学:元素の特性を活かした有機・無機構造体の構築

1.研究課題名:

元素科学:元素の特性を活かした有機・無機構造体の構築

2.研究期間:

平成12年度~平成16年度

3.研究代表者:

玉尾 皓平(独立行政法人理化学研究所フロンティア研究システム・システム長)

4.研究代表者からの報告

(1)研究課題の目的及び意義

 平成12年度に中核的研究拠点形成プログラム「京都大学COE元素科学研究拠点」として発足した研究組織が14年度より特別推進研究(COE)として研究活動を継続してきたものである。研究課題中の「元素科学(ElementsScience)」は既存の「物質科学」や「分子科学」の根幹をなす新しいパラダイムの提唱を企図して創出した新概念である。すなわち、物質の特性・機能を決定づける特定元素の役割を解明し、物質中の元素選択則を導き出すことで新物質創製のための指針を得ようとするものである。言い換えれば、有機化学、無機化学などの既存の学問分野を越えた、いわば共通の元素選択則ともいえる法則を導き出すことに努め,新物質創製のための指針を得ようとするものである。このような考えに基づいて、元素の特性を活かした新しい有機・無機構造体を構築し、新機能の発現を達成することが本研究の目的である。これによって得られる元素選択の概念は今後の物質創製の為の基本的な指針となり、「分子科学」「物質科学」と「元素科学」が三位一体となって科学技術の進展に大いに寄与できるものと確信している。

(2)研究成果の概要

 この目的を達成するために,有機構造体構築、無機構造体構築および分子集積体構築の3グループ・10名(14、15、16年度に各1名の組織変更を行い、最終的には11名)の研究チームを組み、情報交換を行いつつ研究を実施し、いくつかの元素選択則も提唱できた。
 5年間で得られた成果の代表的なものを以下に列挙する。
「有機構造体構築」:
玉尾皓平・山口茂弘「ケイ素やホウ素を含むパイ共役系の光物性制御とフッ化物イオンセンシング、ケイ素シグマ共役系立体配座異性と炭素パイ共役系位置異性との相関の実証」、小松紘一「炭素シグマ‐パイ共役および三次元共役構造体の構築と機能および水素内包フラーレンの合成」、時任宣博「ケイ素やゲルマニウムを含む芳香族化合物の創製と芳香族性の実証」、檜山爲次郎「ケイ素やホウ素を活用する有機合成反応の開発」
「無機構造体構築」:
高野幹夫「3d遷移金属元素を含む酸化物の強磁性強誘電体の合成やチタン酸化物からの青色発光の達成」、新庄輝也・壬生 攻「鉄・ニッケル薄膜やナノワイヤの磁気構造制御」、横尾俊信「有機-無機ハイブリッド低融点ガラス合成手法の開発と機能性ガラスの創製」
「分子集積体構築」:
齋藤軍治「擬二次元有機伝導体において初めてのスピン液体相の存在の実証」、佐藤直樹「分子集合体中の分子内/分子間の異種原子間相互作用の電子構造の光電子分光法による解明」、杉浦幸雄「人工亜鉛フィンガータンパク質の創製とそれによるDNA構造変化誘発や加水分解機能の付与などに成功」
 これらの研究成果の解析から分野横断的元素選択則をいくつか提唱した。たとえば、鉄やチタンの酸化物の導電機構や発光機構、生体内の鉄・イオウクラスターや亜鉛フィンガーの採用機構などには、酸素やイオウからの金属中心への電子移動が共通していることが見えてきた。
 また、本研究の成果の一つとして、京都大学化学研究所附属「元素科学国際研究センター」の新設が認められ、15年4月に発足し活動を開始した。当初の中核的拠点形成プログラムの目的も達成できたといえよう。

5.審査部会における所見

A+(期待以上の研究の進展があった)
 研究代表者の卓越したリーダーシップのもと、元素科学の新たな中核的研究拠点の形成に成功した。その具現化の一つとして元素科学国際研究センターが設置され、多くの若手研究者が育成されている。基礎研究ならびに応用研究の両面で卓越した成果を上げ、世界の物質創製研究をリードしている。本拠点で提案された「元素科学」の新概念が定着しつつあり、今後、元素の性質を総合的に理解しようとする機運が国内外の化学界にさらに広まっていくことが期待される。以上の観点から、本特別推進研究(COE)は当初の目標を十分に達成し、期待以上の成果があったと判断した。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --