研究課題名:転写メディエーターによる転写制御と生理的意義の研究

1.研究課題名:

転写メディエーターによる転写制御と生理的意義の研究

2.研究期間:

平成14年度~平成18年度

3.研究代表者:

石井 俊輔(独立行政法人理化学研究所分子遺伝学研究室・主任研究員)

4.研究代表者からの報告

(1)研究課題の目的及び意義

 コアクティベーターやコリプレッサーなどの転写メディエーターはエンハンサーやサイレンサーに結合する因子と基本転写因子の間のブリッジ役の分子である。コアクティベーターやコリプレッサーは大きな複合体を形成しており、それぞれヒストンアセチル化酵素(HAT)および脱アセチル化酵素(HDAC)を構成因子として含む。このように転写メディエーターはヒストンの修飾を介して、クロマチン構造を変化させ、転写を制御する。転写メディエーターの研究によって、従来の「転写制御」に関するいくつかの常識が覆されつつある。例えば転写活性化因子と抑制因子の区別がなくなりつつある。いくつかの転写因子はコアクティベーターとコリプレッサーの両方に結合することが示され、コアクティベーターと結合すると転写を活性化し、コリプレッサーと結合すると転写を抑制する。転写因子がコアクティベーターとコリプレッサーをどのように使い分けているのかは転写制御にとって重要な問題である。また最近の研究によって、転写メディエーターの機能が特異的シグナルによって制御され得ることが示され、「シグナルによる転写メディエーターの機能制御」は重要な分野になりつつある。本研究では転写制御のメカニズムを明らかにするために、転写メディエーターに焦点を絞って研究を遂行する。

(2)研究の進展状況及び成果の概要

 Myb(ミブ)やATF-2に結合する転写メディエーターを中心に研究を遂行し、以下のような成果を得た。
 Myb(ミブ)に結合するコリプレッサーとして、キナーゼ活性を有するユニークなコリプレッサーHIPK2を同定し、HIPK2が多様なメカニズムによってWnt-1シグナル依存的にMyb(ミブ)活性を阻害することを明らかにした。
 p53が直接c-Mybに結合し、コリプレッサーmSin3Aをリクルートすることによって、c-Myb標的遺伝子の発現を抑制することを見出した。p53によるc-Myb標的遺伝子の発現抑制は、p53による細胞周期の停止、アポトーシスの誘導に重要な役割を果たしていると考えられる。
 ATF-2ヘテロ変異マウスが高頻度に乳癌を発症することを見出した。乳癌抑制因子として知られているBRCA1とATF-2との複合体がGADD45・遺伝子のプロモーターに結合することを示し、コアクティベーターBRCA1とATF-2が乳癌の抑制因子として一緒に機能することを明らかにした。
 転写因子Shn-2がBMP依存的な脂肪細胞分化に重要な役割を果たすことを見出した。Shn-2がSmad1/4(スマッドワンスマッドフォー)やC-EBPなどの複数の転写因子が効率的にコアクティベーターと結合し、協調的に転写を活性化するために必須であることを明らかにした。

5.審査部会における所見

A(現行のまま推進すればよい)
 ショウジョウバエの実験システムも含めて着実に研究が進展している。また、正・負のメディエーターの同定及び相互関連について新しい成果を上げている。特にp5とc-Mybの研究成果は、メディエーターによる転写抑制の分子機構解明の一端として高く評価される。これらの成果を基盤として、転写制御の新たなパラダイムを見出せるかが注目される。生理的意義を含め、より発展性を期待できる研究の推進が望まれる。研究組織は代表者を中心にまとまっており、研究費は有効に活用されている。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課

-- 登録:平成23年03月 --