ナノ構造配列を基盤とする分子ナノ工学の構築とマイクロシステムへの展開

1.研究課題名:

ナノ構造配列を基盤とする分子ナノ工学の構築とマイクロシステムへの展開

2.研究期間:

平成13年度~平成17年度

3.研究代表者:

大泊 巌(早稲田大学理工学部・教授)

4.研究代表者からの報告

(1)研究課題の目的及び意義

 私達のいのちと暮らしに密接に関連する学術的研究を、産業としての実現可能性とわが国の技術的優位性を意識しつつ推進するために、本研究では、分子スケールのナノ構造体を基本要素として取り上げ、その性状制御によって新物性および新機能を発現させるための学理の構築を第一の目的とし、さらに、その知識の将来への応用を念頭に置いて、いのちと暮らしの質の向上のためのマイクロシステムを実現する指針の構築を第二の目的とする。
 第一の目的における研究課題は、個々の分子およびその集団としての挙動制御によるナノ構造形成、制御された性状に由来する新機能(分子認識能、ゆらぎ抑制デバイス特性、高密度記録特性、マルチチップ電子放出能、など)の発現、新機能発現機構の解明、固体表面近傍でのスピン制御、などである。半導体エレクトロニクス、電気-、高分子-、無機-、生物-の諸化学、ならびに基礎物理学を横断するこの学際領域を私たちは「分子ナノ工学」と呼ぶこととする
 第二の目的において想定するマイクロシステムは、(1)ホームライブラリ/シアターおよびウエアラブルコンピュータの基幹デバイスとなる超高密度メモリ、(2)生体情報モニタリングのための集積センサシステムおよび超高感度免疫分析を実現する生体分子認識システム、(3)ウエアラブルコンピュータ・センサーシステムを支えるマイクロエネルギーデバイスである。

(2)研究成果の概要

 拠点整備は、研究の場としての「ナノテクノロジー研究センター」棟完成(平成13年度)を皮切りに、14年度には、文部科学省ナノテクノロジー総合支援プログラムに係る「 NTファウンドリ」設立、21世紀COE「実践ナノ化学」拠点発足等、15年度には大学院理工学研究科「ナノ理工学」専攻設立、さらにこれら諸活動を統合するワンストップの組織として「ナノ理工学研究機構」の発足など、の実施により、当初の期待以上に進んだ。これらの施策により、研究のみならず、もの作りの場の提供による産官学連携、ならびに人材育成の機能を備えた文字通りの「中核的拠点」としての機能を実現した。現在、技術経営や知財等人文社会系大学院との提携による文理融合教育も推進している。   研究面では、本拠点の特徴である「分子ナノ工学」の際立った学際性に配慮して、メンバー間の共同研究を督励し、14件の学際的共同研究が進展した。さらに、工学系の研究拠点として、基礎研究の成果をプロトタイプとして“形”にするために、8件の試作研究を推進し、その成果について起業専門家による事業化可能性の評価も受けた。   主な研究成果として、ナノスケール性状制御その場観察機器の開発、ナノ構造配列形成のための簡便なプロセスの開発、その成果を利用した次世代1分子蛍光観察法の開発、シリコン表面酸化プロセスシミュレータの開発、高性能ダイヤモンドFET開発とセンサ応用、酸素富化膜の開発、多種材料についての多孔質化の実現、分子ソータの開発、マイクロマシン技術を用いた燃料電池試作、原子個数・位置制御による絶対感度標準試料の作製、等が挙げられる。

5.審査部会における所見

A(期待どおり研究が進展した)
 本特別推進研究では、ナノテクノロジー研究センター棟の完成、ナノ理工学専攻の設立、ナノ理工学研究機構の発足など、COEとして大学からの十分な支援体制の下、代表者が機構長に就任するなどのリーダーシップも発揮され、組織・成果・発表を総合的にみて、期待された研究の進展が達成されている。国際水準に達する研究成果や多くの論文発表も見られ、評価に値するものと認められる。一方、分子ナノ工学に関する基本的な学理の構築に未だ不鮮明な点がある、与えられた原理をイノベーション化する努力が発散的である、などの意見もあった。今後、より密接なグループ間の連携によって、さらなる研究の進展を期待したい。
 なお、本研究課題においては、研究者の所属研究機関による調査の結果、研究分担者による経費の不正使用が明らかになっている。この点については、研究費の使用に関し研究代表者の果たすべき監督責任が十分であったとは言い難い。

お問合せ先

研究振興局 学術研究助成課

(研究振興局 学術研究助成課)

-- 登録:平成21年以前 --