平成7年度 | 76,000千円 |
---|---|
平成8年度 | 76,100千円 |
平成9年度 | 36,000千円 |
平成10年度 | 19,000千円 |
平成11年度 | 120,000千円 |
平成12年度 | 114,000千円 |
平成13年度 | 67,000千円 |
平成14年度 | 14,000千円 |
総計 | 522,100千円 |
特別推進研究によってなされた研究が、本書類作成時点までの間にどのように発展しているか、次の(1)~(4)の項目ごとに具体的かつ明確に記述してください。
本研究は、平成7年(1995年)4月~平成15年(2003年)3月までの8年間実施された。研究代表者山下は、終了1年後の平成16年(2004年)3月に定年退職し、平成16年4月~平成18年(2007年)3月の間国立大学の法人化により名古屋大学理事・副総長として大学の管理・運営に専念したため、研究の一線から退くこととなった。本研究の主たる内容は、研究分担者國枝秀世教授によって継承され、特別推進研究「硬X線撮像観測による非熱的宇宙の研究」(平成15年度~18年度、研究代表者國枝秀世)、更に、基盤研究S「硬X線気球実験による活動銀河・銀河団の研究」(平成19年度~23年度、研究代表者國枝秀世)が採択された。
本研究で世界に先駆けて開発された多層膜スーパーミラーX線望遠鏡(口径40センチメートル、焦点距離8メートル)は、従来のX線望遠鏡に比べて、10~50keV(キロ電子ボルト)の硬X線領域に高い感度を有していることが特長である。研究期間中の2001年7月に、この望遠鏡を搭載した第1回気球実験がNASA Goddard Space Flight Center (GSFC)との国際共同研究(InFOCμS project: INternational Focusing Optics Collaboration for μCrab Sensitivity)として行われ、天体の硬X線撮像観測に初めて成功した。しかしながら、長尺の望遠鏡の姿勢制御は初めての経験であり、姿勢安定性が十分でなかったため、長時間の観測ができなかった。観測装置は無事回収されたが、NASA(ナサ)側の予算事情により、研究期間内に再度気球実験を行うことはできなかった。InFOCμS projectは、特別推進研究の成果を受けて、NASA(ナサ)で採択されたものである。
平成15年(2003年)度からは、再び特別推進研究が採択され、それと並行してNASA(ナサ)側でも予算措置されたので、2004年5月に第2回、9月に第3回の気球実験を行うことができた。特に、第3回の気球実験では、15時間にわたって天体の硬X線撮像観測が行われ、漸く硬X線天文学の第1歩を踏み出すことができた。この成功によりNASA(ナサ)はInFOCμS teamに対して2005年にGroup Achievement Awardを授与した。
InFOCμS計画に加えて、更に観測を進めるために、特別推進研究で焦点面硬X線検出器の開発を進めている大阪大学大学院理学研究科の常深博教授のグループとJAXA(ジャクサ)宇宙科学研究本部の気球グループとの共同研究(SUMIT計画: SUperMirror Imaging Telescope)を行うこととなり、2006年11月にブラジルで気球実験を行った。しかしながら、天候不順と姿勢制御系の不調により十分な成果が得られず、また、観測装置は海上に落下したため、回収できなかった。これは特別推進研究が採択されている大学間の共同研究として、新たな研究の展開を示唆するものである。
一方、銀河団の構造と進化の研究は、X線天文衛星「あすか」(1993~2000年)で観測されたデータの解析により進めてきた。2000年にAstro-E衛星が打ち上げられたが、1段目のロケットの異常により軌道に乗らなかった。そのため、1999年に打上げられたアメリカのChandra衛星、ヨーロッパのXMM-Newton衛星で観測されたデータの解析をもとに研究を進めてきた。2005年7月にAstro-Eの再挑戦として「すざく」衛星(Astro-E2)が軌道に乗り、現在まで観測を続けている。しかしながら、従来のX線CCDに比べてエネルギー分解能が1桁優れたmicro-calorimeterが、軌道上での動作試験中に冷媒である液体ヘリウムが瞬時に蒸発したため、機能しなくなった。そのため、今後の大きな研究課題としていた詳細なスペクトル観測による銀河団の3次元構造の導出、鉄輝線の共鳴散乱効果を用いたハッブル定数の導出及び重元素組成比の問題の解明が難しくなった。現在稼働中の3つのX線天文衛星のデータ解析によりこれらの問題の解明を目指している。世界的には、まだ、この研究課題についての論文は発表されていない。新たな研究の展開には、2013年以降に計画されているX線天文衛星による観測を待たざるを得ない。
銀河団のもう一つの課題は、解像度の優れた軟X線の撮像観測により、銀河団内に多くのX線源が存在することが明らかになってきた。その半数は、可視光で観測された銀河と同定できず、スペクトルから巨大ブラックホールを中心核とする活動銀河核ではないかと考えている。即ち、銀河団環境における銀河の形成と進化の問題と捉えている。軟X線領域では、銀河団を満たす光学的に薄い高温ガスからの熱放射(プラズマ温度1千万~1億度)が卓越しているが、硬X線領域では、熱放射が極端に弱くなり非熱的放射を示すこれらの未知のX線源がS/Nよく観測できると期待される。活動銀河核、銀河団の硬X線撮像観測により、宇宙物理学の最大の課題であるブラックホール、ダークマターの解明を究極的な目標として研究を進める。衛星観測が実現するまでは、長時間の気球観測によりこの問題に挑戦する。
名古屋大学副総長を任期満了・定年により退任した平成18年4月以降は、管理・運営業務から解放され、研究に専念できるようになった。本研究の最大の目標であった硬X線望遠鏡による撮像観測とその科学的成果を明らかにするために、2004年9月の15時間に及ぶ第3回InFOCμS気球実験の観測データの解析を進めている。1~2ヶ月後には、その結果が発表できる見込みである。衛星観測と異なって、気球観測では姿勢の安定性が悪く、姿勢決定に多くの時間を要すること、世界で初めての硬X線撮像観測であるので、観測データの信頼性の確認が重要である。この結果を踏まえて、2009年に第4回のInFOCμS気球実験を予定しており、本格的な銀河団の硬X線撮像観測を行う。1995年度に本研究が採択されて以来、本来の目的を達成するのに15年を要することとなる。衛星観測が不可欠なX線天文学の発展には、長期的な展望を持った研究の展開が必要である。
研究期間終了後の2003~2007年までに発表した論文等は以下の通りである。
講演の内容はこれまで開発してきた多層膜スーパーミラーX線望遠鏡および多層膜X線光学系に関するものである。宇宙観測のみならず、医用画像診断技術への応用に関心が高まっている。韓国、中国からの要請によりX線結像光学に関する講義・セミナーを行った。この新しい研究分野の発展を目指して、研究費が投資されており、日本を追い抜く勢いである。
銀河団の研究は、XMM-Newton衛星で観測されたデータの解析により進めてきたが、2005年に「すざく」衛星が打ち上げられ、これから観測成果が得られると思われる。
多層膜スーパーミラーX線望遠鏡の開発に関しては、アメリカに2つの競合する研究グループがあるが、まだ我々のレベルには達していない。引き続き世界をリードしていくためには、宇宙物理学的に重要な科学的成果をできるだけ早く発表することが不可欠である。
なし。私は平成15年度末に定年退職した。そこで、研究代表者として、私が申請することを控え、研究分担者の一人である者國枝秀世教授に世代の交代をすることにした。幸いにも、平成15年度に特別推進研究「硬X線撮像観測による非熱的宇宙の研究」(平成15年度~18年度、研究代表者國枝秀世)が採択され、研究を継続することができた。私が、大型研究の研究代表者を務めるのではなく、次代を担う研究者を支援することが役割と考えている。従って、研究代表者として、研究費を取得していない。
本研究で生み出された最大の成果は、X線天文学の研究のブレークスルーとなる多層膜スーパーミラーX線望遠鏡を世界に先駆けて開発したことである。この望遠鏡を気球に搭載して、15~45keV(キロ電子ボルト)のエネルギー領域で解像度1分角の天体の硬X線像が得られた。気球高度(40キロメートル,3g/cm2(グラム毎平方センチメートル))では、大気吸収のため、15~20keV(キロ電子ボルト)以上のX線の観測に限られる。観測された天体は、ブラックホール候補天体Cyg X-1、パルサーHer X-1,4U0115635である。銀河団、活動銀河核の観測も行ったが、姿勢の安定性が悪く、観測時間が短かったために、有意な成果が得られなかった。Cyg X-1では、軟X線観測で見られなかった点源の周りに広がった成分が初めて観測された、これはブラックホールの活動度に依存すると考えられる。非撮像観測では、点源が分離できず、S/Nが悪いため、これまでの強度・スペクトルの時間変動について再考を促すことになる。
銀河団のプズマ温度・重元素組成比の分布の導出により、併合合体による銀河団の形成・進化の道筋を明らかにした。光学的に薄い高温プラズマからのX線スペクトルに見られる鉄K輝線の共鳴散乱効果を明らかにしたが、銀河団の3次元構造、ハッブル定数の導出までには至っていない。
X線望遠鏡の開発を支える基盤技術として、多層膜スーパーミラーの設計・成膜技術、超精密非球面加工・計測技術、レプリカ技術、性能評価法が大きく進展した。
本書類作成時点までの間に、特別推進研究の研究成果が他の研究者に活用された状況について、次の(1)、(2)の項目ごとに具体的かつ明確に記述してください。
X線天文学の発展には、衛星による宇宙観測が不可欠であり、これまでに多くのX線天文衛星が打上げられてきた。軟X線領域(0.1~10keV(キロ電子ボルト))では、高性能なX線望遠鏡が開発され、より遠方の、微弱な天体の観測が大きく進展してきた。しかしながら、硬X線領域(10~100keV(キロ電子ボルト))まで感度をもつX線望遠鏡の開発が難しく、その観測は非撮像型大面積検出器によって行われてきた。このような状況の中で、我々が世界に先駆けて開発した多層膜スーパーミラーX線望遠鏡は、硬X線の撮像観測を可能にし、将来の発展に向けてのブレークスルーとなる。即ち、検出感度が3桁向上し、これまで謎に包まれていた天体の高エネルギー現象を観測的に明らかにすることができる。
「あすか」、「すざく」衛星に搭載されたX線望遠鏡はアメリカで開発され、その設計・製作・性能評価には本研究グループが中心的な役割を果たしてきた。2013年打上げを目指して計画されている日本のX線天文衛星NeXTには、日本独自で開発した多層膜スーパーミラーX線望遠鏡が搭載される予定である。NeXTは、世界で初めての硬X線撮像観測ができる衛星であり、「あすか」衛星がX線天文学のフロンティアを拓いたように、日本が再び世界をリードする衛星となると期待される。大学で育ててきた研究の芽がビッグプロジェクトへと発展するものであり、大学の基礎研究の重要性を示す好例である。これは、短期的な成果を求めるものではなく、10年程度の長期的な視点に立った地道な研究が必要であることを示唆している。そもそも、20年前に多層膜X線反射鏡の研究を始めた頃には、X線天文屋はほとんど関心を示さなかった。重点領域研究「X線結像光学」(平成元年度~3年度領域代表者波岡武、山下広順)、更に、特別推進研究により急速に実現可能性が高くなるに従って、将来の発展に向けての期待感が高まってきた。
本研究を進めるに当たっては、「宇宙の探究は人類に夢を与え、知的好奇心を呼び起こすとともに、世のため、人のためになる先端技術を創出する研究である」ことをキャッチフレーズとしてきた。宇宙物理学の最先端を推し進めるには、自らの手で先端技術を開発することが必要であり、その技術は医用診断・治療にも有用である(人体に優しい医療技術の開発)。基礎研究においては、広い視野に立った研究の展開が必要である。X線天文学と精密工学の研究者が、give and takeをベースに、共同研究を行ったことにより、世界をリードする研究成果を得ることができた。
ISI web of scienceとSmithsonian/NASA Astrophysics Data Systemをもとに被引用回数を調査・検索した。調査日 2007年12月26日。
次の(1)、(2)の項目ごとに、該当する内容について具体的かつ明確に記述してください。
多層膜スーパーミラーX線線望遠鏡を開発する中で、医療技術への応用を考えてきた。終了ヒアリングでもそれを期待するとのコメントがあった。現在の研究グループの規模ではそこまで手を伸ばすことは難しく、企業への働きかけも行ってきたが、まだ実用化には時期尚早の段階であった。先ず、我々が実用化のための装置を試作して、その有用性を示す必要がある。ところが、韓国の大学附属病院から医用画像診断に応用したいとの話があり、共同研究により実用化を目指した研究開発を進めている。また、中国の大学とも共同研究を進めている。我々の開発した技術が実用化に向けて展開されるならば、日本にこだわる必要はないと考えている。ベンチャービジネスとして展開することも考えたが、積極的に特許の取得をしなかったため、それに関連した研究費の獲得が難しい状況にある。
研究の最先端を推し進めるためのX線望遠鏡の開発に必要な技術は企業では未成熟の状況にある。従って、自ら基盤技術の開発を行う必要があった。仮に、仕様を決めて企業に発注した場合には、数倍の研究費が必要となる。これまでの日本のX線天文衛星に搭載されたX線望遠鏡は全てin houseで設計・製作されてきた伝統がある。
本研究では、既存の高価な装置を購入するのではなく、必要な装置を我々の目的に合うように設計し、メーカーに発注してきた。装置の性能評価は我々が行い、それを受けてメーカーは販路の拡大を行っている。多層膜成膜装置、超精密非球面加工装置、X線光学特性評価装置、3次元形状計測装置等がある。これらの装置を用いて、多層膜スーパーミラー製作技術、ナノレベルの非球面加工技術、レプリカ技術等が大きく進展した。将来、産業界にも定着していくものと期待している。これにより、多層膜スーパーミラーX線望遠鏡をin houseで設計・製作し、性能評価を行った。
世の中の風潮として、目先の成果にとらわれるあまり、基盤技術の育成が疎かになっているように思われる。
研究期間中(平成7~14年度)に大学院博士課程前期課程(MC)及び後期課程(DC)の修了者数を年度別、機関別に表に示す。MC修了者の1/3弱しかDCに進学してない。名古屋大学大学院理学研究科のDC修了者の現在の職は、准教授1名(愛媛大学)、助教1名(名古屋大学エコトピア科学研究所)、PD研究員3名(名古屋大学2名、JAXA(ジャクサ)1名)、外国研究機関のPD研究員2名、企業2名、中部大学大学院工学研究科のDC修了者は准教授1名(中部大学工学部)、外国研究機関研究員1名、企業1名である。何れもPD研究員を経て定職に就いている。研究期間中に3名のPD研究員(日本学術振興会PD特別研究員)が参加したが、現在の職は助教1名(名古屋大学大学院理学研究科宇宙物理学研究室)、任期付研究員1名(JAXA(ジャクサ))、企業1名である。大型研究が採択されている場合には、DC修了者をPD研究員として雇用できるが、研究期間終了後のPD研究員の就職が大きな問題である。研究室で助教を採用する場合には、複数のPD研究員を雇用し、その中から選考することが望ましいと考えている。
博士課程前期課程(MC)修了者
年度 | 平成7年度 | 平成8年度 | 平成9年度 | 平成10年度 | 平成11年度 | 平成12年度 | 平成13年度 | 平成14年度 | 計 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
名古屋大学大学院理学研究科 | 4 | 4 | 4 | 3 | 4 | 5 | 5 | 4 | 33 |
中部大学大学院工学研究科 | 0 | 3 | 3 | 3 | 1 | 6 | 2 | 0 | 18 |
宇宙科学研究所 | - | - | - | - | 1 | 0 | 2 | 3 | 6 |
博士課程後期課程(DC)修了者
年度 | 平成7年度 | 平成8年度 | 平成9年度 | 平成10年度 | 平成11年度 | 平成12年度 | 平成13年度 | 平成14年度 | 計 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
名古屋大学大学院理学研究科 | 1 | 2 | 1 | 1 | 2 | 0 | 1 | 1 | 9 |
中部大学大学院工学研究科 | 1 | 1 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 3 |
宇宙科学研究所 | - | - | - | - | 0 | 1 | 0 | 0 | 1 |
X線天文学の分野では、衛星の観測データの解析で多くの論文を書いた研究者が人事選考では評価される傾向にあり、実験屋としての後継者育成が大きな課題である。MC終了後企業に就職する院生の中には、実験に優れた資質を有する者がいるが、X線光学・計測、精密工学の分野では企業からの需要が多く、DCに進学しようとしない。就職が内定するのがMC2の前半であり、修士論文の作成に集中し始めるのがMC2の後半からである。研究への意欲がわいてきた時に、就職を断念して、DCに進学する決心がつかないようである。教員は、雑務に追われて、十分な研究指導ができないのが現状である。DC定員充足率が徐々に低下している中で、「ものつくり」のできる後継者を育成することが、大学院教育の大きな課題である。我々のようにグループで研究を行う場合には、大学院生を労働力として使っているとの批判がヒアリングで出されたが、我々は実験の基礎を身に付ける修業の場と捉えている。ビッグプロジェクトを担う研究者の育成には、このような体験は不可欠である。特に、そのリーダーとなり得る人材の育成が求められている。
現在、本研究に関わった2名の若手研究者が、ドイツのMax-Planck Institute for Extra-terrestrial PhysicsとアメリカのNASA Goddard Space Flight CenterでPD研究員として実験的研究を行っており、リーダーとして成長することを期待している。腰を落ち着けて実験的研究をするには、PD研究員の任期は5年程度必要であると考えている。
-- 登録:平成21年以前 --