慶應義塾大学パネルデータ設計・解析センター 中間評価結果

大学名

慶應義塾大学

研究分野

経済統計学、応用経済学

拠点名

パネルデータ設計・解析センター

学長の氏名

清家 篤

拠点代表者

樋口 美雄 商学部教授

共同研究拠点の整備状況等の概要

(共同研究拠点の目的)
慶應義塾大学パネルデータ設計・解析センターは、多数の研究者や研究機関の参加を得て、(1)主体行動や市場機能、所得分配に関わる理論仮説に基づき、同一の家計や企業の行動、経済状況の変化を長期にわたり追跡調査した信頼に足るパネルデータを設計構築し、これに基づき実証研究を行なうと同時に、(2)国内外の研究者に収集したデータを公開し、研究会やシンポジウムを通じて成果を発信し、(3)セミナー等を開催することによって講義や演習を通じ利用者を積極的に開拓し、質量両面で実証経済学の発展に貢献できるよう先導的共同研究拠点の構築を目指す。

(当該共同研究拠点における成果)
本拠点の過去2年間の活動は、当初の上記三つの目的を達成するのみならず、日本の一般ユーザーが海外のデータを利用し所得格差の国際比較分析を可能にし、実際の政策立案に貢献するなど、以下の副次的成果を挙げることができた。
(1) パネル調査設計ならびにデータ解析:日本家計パネル調査の設計・実施 本拠点の実施した「日本家計パネル調査」(JHPS) は、経済状況とともに教育や健康・医療などの包括的な調査項目を含み、全国4,000世帯から回答を得た大規模調査であり、質・量ともにわが国では類を見ない先駆的なものであると評価されている。また、第1回調査では、調査方法と回収率の関連を検討する実験的試みを行った。こうした試みは、本調査の効率的な実施に役立つのみならず、近年多くの社会調査で問題となっている回収率低下の背景を探る上でも非常に重要な結果である。さらに、2009年度は、主として教育政策への提言を目標とし、回答者とその子供を対象とした付随調査を行うという先駆的な試みを行った。
パネル調査に基づく実証分析 JHPSを用いた実証分析に関しては、計11の論文を収録した報告書(『貧困のダイナミズム』)として取りまとめた。また、業務参加者による研究成果も蓄積されつつあり、現時点では12件の分析結果がディスカッションペーパーとして公開されている。一方、本拠点が公開を行っている「慶應義塾家計パネル調査」(KHPS)に関しては、これまでに計6巻の報告書が刊行され、学術誌などに掲載された論文は84件にのぼる。
企業データパネル化可能性検討 日本政策金融公庫総合研究所との共同研究を行い、「新規開業パネル調査」の本拠点からの一般研究者へのデータ公開を準備している。

(2) データ公開と成果発信:本拠点で公開しているパネル調査については、現時点までに125件の利用があった(JHPS: 24件/KHPS: 101件)。さらにJHPSに関しては、2010年7月からの一般公開を予定している。研究成果発信のための取り組みとしては、拠点が主体となって計8件のシンポジウム・セミナー・研究会を開催した。また、ルクセンブルグ所得研究との共同研究を通じてKHPSを国際的に公開することで、経済格差等の国際比較研究を飛躍的に進展させている。パネルデータを利用した研究成果は、国内外の査読付学術誌に掲載されているのみならず、政策決定の現場でも活用されており、Evidence-based policyの重要性を示すことに貢献している。

(3) 利用者開拓:利用者開拓のための集中講義・演習形式のセミナー(2008年度:4日連続12コマ、2009年度:6日連続16コマ)は、多数の参加者(2008年度: 70名、2009年度: 60名)を集めるとともに、調査結果に関するニュースレターの発行は、41,000件を超える拠点Webサイトへのアクセスを生むなど利用者開拓・一般ユーザーへの周知に大きく貢献した。 

「特色ある共同研究拠点の整備の推進事業」事業委員会による評価

(総合評価)
計画は順調に実施されており、今後も継続することによって目的達成が可能と判断される。

(コメント)
当初の計画に沿って、長期の追跡調査によるパネルデータの構築・実証研究、データの公開や研究会等による成果の発信等の計画が着実に実施されており、今後の継続的な取組により目的達成が期待できる。
共同研究拠点の運営については、より効果的な実施体制とするため、データの設計から解析を一貫して行うテーマ毎の研究班に研究部を改組するなどの改善が図られ、拠点全体としても系統的な体制が採られている。また、共同研究の実績、公開したパネル調査の多数の利用実績など、共同研究拠点として優れた成果があがっており、本事業によるパネル調査結果の政策への活用実績があるなど、社会的にも評価されている。
ウェブサイトやセミナー等を通じた情報発信を積極的に行っており、共同研究拠点の成果の公開やパネルルデータの利用者開拓を行っている点は高く評価できる。
今後は、研究対象のウェイトの置き方について効果的な事業の実施の観点からの工夫を行うことにより、当該分野の中核的な共同研究拠点の構築が期待できる。 

 

お問合せ先

研究振興局学術機関課

機構調整・共同利用係
電話番号:03-5253-4111(内線4299)

-- 登録:平成22年08月 --